忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

日本は「奴隷」が少ない国である:世界奴隷指数2023(Global Slavery Index 2023)を見る

 

 日本は世界的に見ても「奴隷」が少ない国です

 

と冒頭から述べると反発を受けそうな気はしますが、現代の奴隷に関する国際統計を紐解くことで、日本の現状と課題を詳らかにしていきます。

 

世界奴隷指数(Global Slavery Index)

 世界奴隷指数(Global Slavery Index)は国際人権団体Walk Freeが不定期に発表している指標です。

 同団体はあらゆる形態の現代奴隷制度の根絶に焦点を当てており、強制労働、強制または奴隷的な結婚、借金による束縛、強制的な商業的性的搾取、人身売買、奴隷制のような慣行、および子供の売買と搾取を含む包括的な奴隷的制度を調査した上で各国の指数を算出しています。

 

 人身売買に関しては過去に当ブログでも米国務省の報告書(Trafficking in Persons)を取り上げたことがありますが、Trafficking in Personsは人身売買を適切に取り締まれているかを評価基準としています。対してGlobal Slavery Indexは人数の推定や政府の対応などを幅広く分析している指標です。

 

 具体的に、Global Slavery Indexは次の3点を評価しています。

  • 人数の推定(PREVALENCE)
  • 脆弱性(VULNERABILITY)
  • 政府の行動(GOV RESPONSE)

 人数の推定は、実際に奴隷的扱いを受けている人を直接数えることはできないため、ILO(国際労働機関)、IOM(国際移住機関)、Gallup(世論調査会社)といった組織のデータセットを用いて算出しています。

 脆弱性は様々な国際団体のデータセットから、ガバナンス(政治不安/政府の対応/女性の安全/政治的権利/規制の質/障害へのハラスメント/武器へのアクセス)、基本的ニーズ(携帯電話/栄養不足/セーフティネット/借金の能力/結核/綺麗な水へのアクセス)、不平等(緊急時の資金/凶悪犯罪/ジニ係数/法執行機関の信頼性)、権利の剥奪されたグループ(雇用主の優先/社会グループの質/LGBTIの受け入れ)、紛争の影響(国内避難民/テロの影響/内紛)といった項目を用いて算出しています。

 政府の対応は専門家グループによって設定された為すべき枠組みを実施しているかによって評価されます。枠組みは5つあり、生存者の特定と支援、刑事司法のメカニズム、国及び地域レベルの調整、リスク要因への対処、政府と企業のサプライチェーンです。

 

日本のスコア

 現時点で最も新しいGlobal Slavery Index 2023における日本のスコアを見ていきます。

 まず人数の推定において、日本は1000人あたり1.1人と推定されており、これは160か国中9位です。よって世界的に見て日本は「奴隷」が少ない国であるとするのは妥当な結論だと言えるでしょう。

 次に脆弱性100点中11点です。この数値は脆弱性を表していることから、低い方が優れた評価となります。これは160か国中13位です。奴隷制に対する耐性も世界的に見て充分高いと評価されています。

 最後に政府の対応100点中44点です。この数値は高い方が優れた評価であり、これは176か国中104位です。この点において日本は明確に悪いと評価されています。5つの枠組みのうち全てが低評価で、特にサプライチェーンへの取り組みが不足しているとの判定です。この結論は米国務省の報告書(Trafficking in Persons)において日本が低評価である理屈とも合致しています。

 

結言

 総評として、日本では現代の奴隷と呼べる人は少なく、奴隷制への耐性は高いものの、政府の対応は不足していると言えます。人数が少ないこと自体は素晴らしいですが対応の不足は課題ですので、今後の改善が必要です。

 

 最後に、Walk Freeは各国に3つずつ改善勧告を提示していますので、日本への3つの勧告を見て終わりにしましょう。

 

1. Criminalise human trafficking in line with international conventions.

 国際条約に沿って人身売買を犯罪化すること。

 

2. Enact legislation recognising that victims should not be treated as criminals for conduct that occurred while under control of their exploiter and ensure the law is enforced.

 被害者が支配者の支配下で行った行為に対して犯罪者として扱われるべきではないと認識し、法の執行を確保するための立法を制定すること。

 

3. Remove laws or policies that prevent or make it difficult for workers to leave abusive employers without risk of loss of visa and deportation and/or security deposits.

 虐待的な雇用主からリスクなく離職できるよう、ビザの喪失や強制送還、または保証金没収のリスクを防止するための法律や政策を撤廃すること。