忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

日本は海外への”ばらまき”が足りていない

 なんとなくセンセーショナルな響きの記事タイトル。

 ODA評価における一側面の話。

 

数値的事実

 日本のODAや海外投資がニュースになるとほぼ必ず見かける「ばらまき」という表現に関しては、過去の記事でも述べたように個人的にはあまり同意しかねます。

 日本のODAの大半は有償資金協力(円借款・海外投融資)、すなわち「金利を取ってお金を貸し付けている」のであり、一般的にイメージする「ばらまき」とは異なる様相です。

 例として、2021年度の実績では無償資金協力が695億円に対して有償資金協力は1兆2747億円と、桁が違います。

国際協力機構年次報告書 2022 | JICAについて - JICA

 

 そして一般的な「ばらまき」のイメージに合致する無償資金協力、これはむしろ減少傾向にあります。

*過去10年間の無償資金協力の事業規模の推移のExcelデータより作成

国際協力機構年次報告書 2022 | JICAについて - JICA

 

 以上の実績値からすると、「日本はお金をどんどん海外にばらまいている」といった意見は少し誇張や誤解を含んでいると考えます。

 

海外との比較や評価

 とはいえここまでのデータから分かるのは「日本がどの程度海外へお金を出しているか」までであり、他国と比べての大小が分かりません。他国に比べて多くのお金を出しているのであれば、やはり「日本はお金をばらまいている」と言ってよいでしょう。

 今回はその比較としてSDSN(Sustainable Development Solutions Network)が集計している情報を参照します。

 

 SDSNは国連が立ち上げた非営利団体で、各国のSDGs達成度合いを毎年評価してレポートを出しています。

Sustainable Development Report 2022

 この団体が集計している指標のうち、SDG17における以下の指標が「お金のばらまき度合い」を指しています。

For high-income and all OECD DAC countries: International concessional public finance, including official development assistance

高所得国とOECD DAC(開発援助委員会)に所属する国々において、政府開発援助を含む国際譲許的な公的資金

 

 固い表現ですが、簡単に言えば国民総所得(GNI)に占める政府開発援助(ODA)の額です。

 このODAの額は「無償部分(市場金利以下の融資を含む)」のみがカウントされています。

 つまりこの比率が高ければ高いほどその国は経済規模に比してほぼ無償でお金をばらまいている、SDGs的に言えばグローバルパートナーシップの活性化に貢献していると判定されます。

 

 SDSNの2022年レポートから、主要国の比率を以下に示します。

 

 極端に低いというほどではないものの、日本は主要国の中でも途上国へ資金協力をしていない国、言い換えれば海外へお金をばらまいていない国だと言えそうです。少なくとも国連の目標値の0.7に到達していません。

 むしろ達成している国のほうが少ないのですが、それはさておき、実際問題としてSDGs達成率において日本のSDG17は「大きな課題が残る」と評価されており、資金協力の額が少ないことがスコアを下げる原因の一つになっています。

 

結言

 数値的な事実を総合すると、日本は他の主要国に比べて「ばらまき」が多いとは言えず、むしろ相対的には足りない国として評価されています。

 極論ですが、SDGsの達成を目指して他国からの評価を上げるにはもっとお金を海外にばらまく必要があるとすら言えるでしょう。

 

 とはいえ無償資金協力の原資は国民の血税であり、国内への投資や国民への還元を優先するか、それとも海外へもっとお金をばらまくか、どちらを選ぶかは国民の総意次第です。

 また、対GNI比はODA評価の一側面ではありますが、一側面でしかないとも言えます。単純な金額の多寡のみでなく、供与した資金が適正な用途に使われているかなど重視すべき点は他にもあるでしょう。

 

 個人的には国内優先であって欲しい気持ちはありますが、自国ファーストの度が過ぎて国際社会から孤立するのもまたリスクですので、上手いこと他国と足並みを揃えた額で協力していくのが良いのではないかと愚考します。