唐突ですが、気に入った記事を紹介するコーナーをやります。
今回の記事は完全に人様のフンドシです。
トヨタイムズの記事
世界的な潮流として自動車のBEV化が進んでいます。トヨタは日本を代表する自動車メーカーであり、そのためにトヨタのBEV戦略やBEV販売台数が世界の潮流から遅れていると槍玉に挙げられているのをよく見かけることでしょう。
そんなトヨタのオウンドメディアであるトヨタイムズで先月興味深い記事があったので、それを紹介します。
ぜひ元記事を読んでもらいたいので詳細は述べませんが、大枠で言えば次のような意見・視点です。
- 電池用鉱物や充電インフラの不足は今後も続く
- 限られた資源を活用することで、できるだけ早く、出来るだけ多くの成果を出す
- 他で活用できる資源を持ち歩くことは過剰在庫のムダと同じ
上記記事では一例としてBEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、HEV(ハイブリッド車)の3パターンでバッテリー資源を分配する場合を例示しています。
1台のBEVを作るバッテリーで6台のPHEV、90台のHEVに配分できるとの条件です。
■計算条件
ガソリン車のCO2排出量:253g/km
BEVのCO2排出量:62g/km
PHEVのCO2排出量:80g/km
HEVのCO2排出量:178g/km
100台のガソリン車のCO2総排出量:25300g/km
1台をBEVで置き換えた場合:25109g/km (削減効果:小)
6台をPHEVで置き換えた場合:24262g/km (削減効果:中)
90台をHEVで置き換えた場合:18550g/km (削減効果:大)
つまり1台のBEVにたくさんバッテリーを積むよりもたくさんのHEVに分散して積んだ方が限られた資源であるバッテリーを有効活用することができ、総合的に見てCO2排出量をより削減できるという主張です。
トヨタのオウンドメディアでトヨタの学者が提示する数字であり、自社に都合が良い数字を使っている可能性もありますので数字を鵜呑みにする必要はありませんが、この考え方自体には大きな意味があります。
最も良いやり方が最短で全体に普及できるとは限らない以上、どのようにやり方を変えていくかは熟考されなければなりません。
確かに全てのガソリン車をすぐにでもBEV化できるのであれば、それがCO2排出抑制には最も効率的です。
しかし少なくとも自動車の分野において今後数十年に渡り電池用鉱物や充電インフラが不足することは目に見えており、そもそも全ての車をBEV化するために必要充分な資源が地球上に存在しない可能性すらあります。
そうであれば、徐々にBEV化を進めていくに当たって最もCO2排出量が少なく済むように利用可能資源を配分していく方策を練ることは極めて合理的な考え方だと言えるでしょう。
私はBEVだけをつくれば良いと主張していません。多くのBEVをつくるのに十分な資源が地球上にありますが、BEVだけを実現するために必要な資源はありません。
救命ボートの乗客よりも漕ぎ手に多くの水を与えるように、私たちはBEVを最も効果のある場所、つまり、クリーンな充電に簡単にアクセスできるお客様に割り当てるべきなのです。
全体として最も良い結果を出すには、他のお客様は、従来のガソリン車をBEVではなく、PHEVやHEVに交換すべきなのです。
最適なものを最高の効率で
「トヨタはBEVで遅れている、もう駄目だ」と言った記事をたまに見かけることがあります。
もちろんトヨタがテスラなどの他社に比べてBEVの販売台数で遅れていることは一つの事実ではありますが、トヨタはBEV一本化よりも様々なラインナップを揃えて適切な割り当てを取る方がユーザーと環境に適していると考えていることがこの記事から読み取れます。
理想の状態に対して一足飛びで向かうのではなく、最適な成果を現実的に模索する努力。
地に足をつけて最適なものを最高の効率で提供しようとする姿勢。
このような現実論者の活動は空を飛ぼうとする理想論者からすれば夢の無い話に見えるかもしれません。
しかし堅実な現実論は世の中に不可欠であり、尊重すべき考え方です。
私は「やってる感」よりも実際の効果を重視していますので、「環境に良いだろうと思われる行動」を取ることよりも「実際に環境に良い行動」を取るべく努力しているトヨタ的な戦略を支持します。
結言
何もトヨタ的な現実論が最高だと言うわけでもなく、テスラ的な理想論も世の中には絶対に必要です。むしろ「どちらか片方だけでよい」とする発想こそを避けるべきだと考えています。
理想論が道を示し、現実論が道を舗装する。
それぞれの役割と機能は優劣で競うものではなく、両輪の存在です。