どうにもニュース等で用いられる際に混乱のある用語「ヒートポンプ」に関して、解説を試みます。
世界情勢
昨今、欧米ではヒートポンプ(heat pumps)が話題です。
欧米では主に化石燃料等を用いるボイラーが家屋の暖房を担ってきたのですが、近年はCO2排出量削減のために電気で暖房ができるヒートポンプでの暖房へ徐々に置き換えが進められています。
たくさんの補助金が出て各国で推し進められてきたものの、ここ数年は戦争の影響による電気代の高騰もあり、なかなか進捗は芳しくない状況です。
例として海外の報道のリンクを2つほど貼ってみます。
【(アメリカ) ヒートポンプはアジアではすでにどこにでもある。アメリカはいつ追いつくのだろうか?】
【(イギリス) ヒートポンプは「より速い速度」で必要とされている】
これは日本人からするとちょっと遠い感覚です。
ヒートポンプでの暖房と言えば、つまりはエアコンです。日本を筆頭としたアジア人からすればもはや一家に一台どころではない普及率の家電であり、それどころかヒートポンプ式給湯器やヒートポンプ式乾燥機なども一般的になりつつある日本からするとエアコンを導入するために欧米政府がてんやわんやしていることは理解が難しいかもしれません。
もちろんエアコン普及率の差は気候やそれに伴う家屋・暖房思想の違いが最たる原因ではありますが、実のところ、この手の環境に優しい省エネ分野において日本は世界のトップです。伊達に資源が無い国の筆頭格ではなく、輸入資源を最大限効率的に用いる努力とその結果に関しては未だ他国の追随を許しません。
つまり大した話ではなく、単純にこの分野では日本が先を進んでいるだけです。
ヒートポンプとは
そもそもヒートポンプとは何か。
ヒートポンプを簡単に言えば、「熱」を集めて運ぶ技術です。
ポンプが水や空気などを集めて運ぶのと同じように、ヒートポンプは「熱」を集めて運びます。
例えばエアコンの暖房は屋外の熱を集めて室内へ運ぶことで部屋を暖めていますし、同じようにエコキュートのような給湯器は大気の熱を集めて水へ運ぶことでお湯を作っています。
ヒートポンプは向きを反対にして、室内の熱を集めて屋外へ運ぶこともできます。それをやっているのがエアコンの冷房運転や冷蔵庫です。
つまり冷やしたり温めたりするために熱を移動する技術の総称がヒートポンプです。
ヒートポンプの意味は幅広過ぎる
さて、先に紹介した海外の記事を見ると、少し言葉のズレがあることに気付きます。
■ヒートポンプはアジアではすでにどこにでもある。アメリカはいつ追いつくのだろうか?
■ヒートポンプは「より速い速度」で必要とされている
「ヒートポンプはアジアではすでにどこにでもある」と言っても、冷蔵庫や自動販売機のようにヒートポンプを使った装置は欧米にだってそもそもすでにあります。
これは欧米と日本で「ヒートポンプ」が指している対象に違いがあるため生じているズレです。
日本で用いられているヒートポンプは主に技術・テクノロジーを指す言葉です。例えばヒートポンプ給湯器やヒートポンプ暖房のように使われています。
対して欧米で用いられているheat pumpsはデバイスの名称です。ヒートポンプ技術を用いて部屋を暖房するための装置をヒートポンプと呼称しています。
このように同じ言葉であっても指し示す意味が異なる場合があり、ヒートポンプはその典型的な一例です。
ちょっとインターネットで「ヒートポンプ」を検索してみれば分かるように、実に異なる用いられ方をしていることが分かります。
ヒートポンプは空気中の熱をポンプのように汲み上げて、必要な場所に「移動させる」技術です。
ヒートポンプとは、少ないエネルギーで低温の熱源から熱を集めて高温の熱源へ送り込む装置で、まさに「熱を移動させるポンプ」といえる。
ヒートポンプは、化石燃料を燃やさずに空気の中にある熱エネルギーを集めて空調や給湯などに使う技術です。
ヒートポンプ(英: heat pump)は、熱媒体や半導体等を用いて低温部分から高温部分へ熱を移動させる技術である。
A heat pump is a device that uses work to transfer heat from a cool space to a warm space by transferring thermal energy using a refrigeration cycle, cooling the cool space and warming the warm space.
ヒートポンプは、冷凍サイクルを利用して熱エネルギーを移動させて、冷たい空間を冷やし、暖かい空間を暖めることで、仕事を利用して冷たい空間から暖かい空間に熱を移動させる装置である。
A heat pump is part of a home heating and cooling system and is installed outside your home.
ヒートポンプは家庭用冷暖房システムの一部で、家の外に設置される。
どれが正しいというわけでもなく、ただ使う人によって意味が異なる単語です。
エアコンの違いも一因
欧米で「ヒートポンプ」が装置の名称になったのはエアコンの影響も大きいでしょう。
日本におけるエアコンディショナーとは冷暖房ができるものを指します。対して冷房専用機は主にクーラーと呼ばれることが一般的です。
欧米におけるcooler(クーラー)はクーラーボックスを指す言葉です。冷房専用機はクーラーではなくair conditioner(エアコンディショナー)と呼ばれます。
つまり日本語における「エアコン」に相当する言葉が欧米には無かったため「ヒートポンプ」が装置の名称として定着したのでしょう。
結言
このように日本語と海外で指し示す意味が異なる言葉は色々とあります。
円滑な意思疎通や情報収集のためにも、この手の違いを認識しておくとお得かもしれません。