忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

技術を社会に実装する際の地域性

 

 HVAC&Rに携わる一日本人技術屋の独り言。

 

業界動向

 空調冷熱システムには様々な方式がありますが、主流は蒸気圧縮冷凍サイクルを用いています。蒸気圧縮冷凍サイクルとは冷媒を循環させて熱を移動する、シンプルながら効率的なサイクルです。

 家庭にある冷蔵庫やエアコン、スーパーやコンビニにある冷蔵冷凍食品ケース、コールドチェーンを繋いでいる低温倉庫や冷蔵車、などなど人や物品を冷やす機械の多くは蒸気圧縮冷凍サイクルの原理を用いています。

 

 私たちの文明的な日常に欠かせないそんな蒸気圧縮冷凍サイクルですが、昨今では用いる冷媒の変更が進んでいます。

 フロンガスがオゾン層を破壊するので使用禁止になったことはみなさんニュースや社会の授業でご存じかと思います。フロンは蒸気圧縮冷凍サイクルで最もメジャーな冷媒でしたが、環境に宜しくないことが分かったので今では多くの国で使用されておらずほとんどが代替フロンに置き換えられました。例として、先進国のエアコンではフロンの代わりに代替フロンR32が多く使われています。

 

 また代替フロンは地球温暖化を促進することが分かっていますので、現在はどんどん地球温暖化係数の低い環境に優しい冷媒への置き換えが進んでいます。

 環境に優しい冷媒の代表格が炭化水素系冷媒です。代表的なものとしてはプロパンがあります。誰もがご存じプロパンガスのプロパンです。

 将来的には代替フロンの規制がさらに強化されていきプロパンのような自然冷媒へと置き換わっていくことが予測されています。

 

ベクトルは分かる、けれども

 気候変動に対処するため地球温暖化係数の低い冷媒へと移行していくことは必然的であり、そのベクトル自体は問題ないことです。ただ、あまりドラスティックに進めすぎるのもちょっと性急なのではないかと一技術屋的には思っていたりもします。

 

 たしかにプロパンのような自然冷媒は地球温暖化係数が低く気候変動を阻止するのに役立ちます。

 しかしながら自然冷媒の多くはよく燃えます。プロパンも、イソブタンも、アンモニアも、がっつり燃えます。

 もちろん燃える冷媒を使ったとしても家庭用程度のサイズであればそこまで大きな影響はないでしょうし、実際に家庭用冷蔵庫は今やほとんどがノンフロンの可燃性冷媒を用いていて問題は起きていません。

 とはいえ安易に規模を拡大して業務用の機器まで自然冷媒に置き換えることに対してはなんとも及び腰です。

 特に日本は災害の多い国です。災害で建物が崩れて自然冷媒が漏れ出すことは絶対に起こり得ます。サイズの大きい業務用システムを安易に自然冷媒へ置き換えてしまうと、災害時にビルの屋上が吹き飛んだりスーパーや食品倉庫が爆発四散したりする可能性がゼロではない、わけです。

 それは地球には優しいかもしれませんが、人にはあまり優しくないかな、と。

 

 なお、このあたりの規制の進捗はグローバルな地域差があります。

 ヨーロッパはイケイケドンドンで自然冷媒への置き換えを進めています。災害が少ない地域ですのでそこまで危険性が心配されていないうえ、人が吹っ飛ぶリスクよりも地球環境を保全することを優先する思想です。

 日本は慎重派です。私のような発想の技術屋が多いためか、人に対する安全性を担保しながら徐々に規制を強めて変更を進めています。

 アメリカは他の環境規制と同じように声はでかいものの動きは鈍重です。「あいつら未だに高環境負荷の代替フロンを使ってるくせに何偉そうなこと言ってんだ、口だけ番長かよ」が率直な個人的感想です。伊達に一人当たりCO2排出量が先進国の中でも高いわけではなく、言っちゃなんですがアメリカの実態は日欧から10年は遅れています。

 その他の地域は待ちの姿勢です。欧州・日本の先行組が大量生産を始めれば安く新しい冷媒やシステムが買えるようになるので、賢い選択だと言えるでしょう。

 

 この辺りの差は各リージョンの事情や思想が強く影響するものですので一概に是非を語ることはできかねますが、まあ、個人的には日本的な進め方、地球にも人にも優しい方向を模索するほうが好みではあります。

 

結言

 環境規制関連では厳しい世間の意見として「ヨーロッパではこれだけ規制が進んでいるのに日本は何をやっているんだ!」との声があがることも多々あるのですが、技術を社会へ工学的に実装することへの是非には地域性があることをご理解いただけますと幸甚です。あっちではできるけどこっちではできない、ここではできるけどあそこではできない、そんなパターンは意外とあります。その辺りを考慮しないと色々とリスキーです。

 あえて地域性に関して賛否の分かれる例を出すならば、原子力発電所を想像してもらえれば、まあ分かりやすいかと。フランスでいっぱい作ってるのを真似して日本でもあっちこっちに作りましょう、は通らないでしょう?