忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

洋上風力発電に関する思索と懸念

 日経さんが広告メールで洋上風力発電の話を送ってきたので、日頃思っていることをつらつらと述べていきます。

 

日本の洋上風力発電の目標と原発換算への疑問

 脱炭素社会の実現に向けて、世界中で化石燃料からの各種代替エネルギーの研究開発、そしてビジネス化が進められており、洋上風力発電はその一つです。日本でも経済産業省が2040年までに30~45GWの洋上風力発電を導入することを検討しています。

 

 この45GWの洋上風力発電を「原発45基分」と換算している記事を時々見かけるのですが、うっかり誤解を招かないだろうかと思っています。

 原発にもサイズが様々ありますので1基当たり1GWとするのは特に異論も無いのですが、この書き方では45GWの洋上風力発電が「原発45基分の電気を作れる」と読者が誤解しかねないのではないかと。

 Wは発電容量や出力の単位で、実際の発電量はWhです。そして風力発電は風が吹いている時に発電する仕組み上、稼働率がそこまで高くはなりません。

 つまり、同じ45GWでも洋上風力発電と原子力発電では実際に発電できる量は大きく異なります

 ビジネスや投資の判断基準としては容量Wを使うほうが比較しやすいのでいいのですが、読者が気にしているのは実際の発電量Whだと思いますので、誤解を招きかねない表現はなんとも宜しくないのではないかと考えてしまいます。

 

 参考として、経産省は30~45GWの洋上風力発電の発電量を307億kWhと試算しており、比較対象としてはあまり宜しくありませんがこれは福島第一原子力発電所(原発6基)稼働時の発電量と同じくらいです。

 

規模感

 30~45GWの洋上風力発電となると、相当な本数の発電機が必要になりそうです。

 日本には台風や大陸からの季節風がありますのであまり大きな風力発電機は建てられないかもしれませんが、とりあえず大きい発電機を使うと仮定してみましょう。

www.technologyreview.jp

 上の記事にある高さ195メートル、羽根長さ80メートルの発電機は1基当たり8MWですので、これを5625本建てれば45GWの容量が達成できます。一般的な1~2MVの発電機で賄うのであれば、その数倍です。

 まあ、良く言えば野心的な計画だとは思います。

 

地球科学としてのアセスメント

 風力発電は様々なレベルでの環境評価(環境アセスメント)が行われています。

 ただ、それらの多くは実際に建てる際の周辺環境へのアセスメントであり、スケールを大きくした場合の地球全体でのアセスメントはまだあまり進んでいないように感じます。

 過去にも記事にしたように、物事はスケールの大小でリスクが変わります。小さくやっているうちは問題なかったとしても、規模の拡大につれて想定していなかった大きな影響をもたらすようになった事例は多数あります。

 風力発電も同様に、近隣住民への影響や周辺の生態系へ与える影響を評価することも重要ですが、よりスケールを大きくした場合のアセスメントがもっと必要だと考えます。

 例えば、風力発電は風の力でタービンを回しています。簡単に言えば地球上で吹いている風を減らします。

 そして風は地球の熱輸送を担っていたり海洋の流れに影響しています。前者は大気循環、後者は風成循環です。フローンの気候区分のように大気循環が植生や気象に影響を及ぼすことが分かっている以上、大気循環や風成循環が弱まることは気候変動を招きかねません。

 また、風は森林の生育にも影響します。

 私たちが発汗によって熱を逃がしているのと同じように、植物は葉っぱの表面から水分を蒸散することで熱を逃がします。その水蒸気や熱を大気中に逃がすためには風が必要です。その他にも植物の生育にはCO2が不可欠であり、そのCO2も風によって運ばれてきます。よって風が弱まればそれだけ森林の生育を阻害することになりかねません。

 

 もちろん風力発電によって失われる風の量が少量であればまったく影響は無いでしょうが、スケールを広げる前にスケールを広げること自体へのアセスメントは必要だと愚考します。

(個人の趣味の範囲で計算した限り、大気循環に影響を与えるようなことはまず無いと考えますが、学問的な結論が欲しいところ)

 

結言

 将来的に枯渇する化石燃料へ頼り続けることは出来ない以上、社会の方向性として再生可能エネルギーの研究や投資、開発や導入を否定するつもりはないのですが、環境に良さそうなイメージだけで進めるのではなく将来への影響や環境への具体的な効果などを充分に熟慮し、現実的に進めていってもらいたいと考えています。