忘れん坊の外部記憶域

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MPaオーダーの圧縮空気はホントに危険だから注意してほしい

 エアコンプレッサーの圧縮空気をいたずらで吹き付けて他者を殺傷する事故のニュースを時々見かけます。日本でも稀に起きていますし、胸糞の悪い嫌な話ですが「Air compressor kill」でニュースを検索すれば、人のお尻にいたずらで圧縮空気を流して殺傷してしまった事例が世界中で生じていることが分かるでしょう。

 

 一技術屋の個人的な感覚としては血迷っているとしか思えません

 思えませんが、たしかにある程度の知見が無ければ危険性が分かり難いのかもしれません。

 今回は日常的に圧縮空気を取り扱っている機械技術屋の私が、圧縮空気のことをどう思っているのかについての感想を述べていきます。

 

圧縮空気は便利なもの

 まず前提として、圧縮空気は決して悪いものではありません。むしろ現代社会に不可欠な、とても便利なものです。

 身近なところでは鉄道やトラックなどの乗り物や医療用機器に用いられていますし、工業分野では盛んに使われています。特に一部の機械や装置を動かすために空圧は必須です。大抵の工場は圧縮空気が無ければ稼働できません。

 

 そもそも機械や装置はエンジンやモーター、コンプレッサーといった駆動装置のエネルギーを目的の動作をするように制御する機構を持っており、それらをまとめてアクチュエータと言います。

 例えばモーターの回転を歯車によって機械的に変えたり、エンジンの力で磁石を回して発電したり、コンプレッサーからの圧力をシリンダーによって直動運動に変えたりです。

 アクチュエータの様相は様々あり、その中から必要に応じて適切な機構を技術者が選定しています。

 

 圧縮空気を用いた空圧アクチュエータはとても一般的です。

 流体を用いるアクチュエータとしては類似のものとして油圧がありますが、油圧はどうしてもシステム全体が大きくなりますし、油なのでメンテナンスも大変です。その点空圧は安価で小さくメンテナンスフリーな機械を設計できます。火災の心配もほとんどありません。

 そのため、ざっくばらんで厳密ではない分類ではありますが、建設機械など強い力が必要な大型機械には油圧、そこまで強い力が必要でない小型機械では空圧が使われます。

 

圧力は怖いもの

 そんな便利な圧縮空気ですが、便利だから安全だとは限りません。圧縮空気は一般にMPaオーダーのため、油や電気と同じように取り扱いを誤ればとても危険です。

 ちなみにこの「オーダー」は理工系の用語らしいので軽く解説すると、概算の規模感や取り扱う大きさを示す際に使います。

 例えば「メートルオーダー」と言えば「今から取り扱う内容はミリメートルやナノメートルやキロメートルではなく、メートルくらいの大きさの話ですよ」といった意味を持ちます。

 

 地球の大気圧は海面上で1013hPa、つまり約0.1MPaです。

 この空気を圧縮して1MPa以上にすると高圧ガスとして扱われます。法令で制限の掛かる危険物扱いです。

 1MPaの圧縮空気がどのくらいのサイズ感かはボイルの法則から理解することが可能です。大雑把に言えば、気体をギュッと圧縮して体積を小さくすると圧力は逆に大きくなるという、まあシンプルな法則です。

 現実的に細かいことを言えば気体をギュッと圧縮すると温度も上がるのですが、そこまで考慮すると面倒なので断熱・等温変化だと条件を設定しています。温度の変化に関してはボイルさんではなくシャルルさんに聞きましょう。

 

 さて、1Lの容器をイメージしてみましょう。500mlペットボトル2本分のサイズです。中は空っぽで空気が入っているとします。圧力は上げておらず、大気圧0.1MPaのままです。

 この容器のサイズはそのままに、空気を圧縮して詰め込んでいって1MPaにするとどうなるかと言えば、ボイルの法則に基づいて約10Lの空気を詰め込むと1MPaになります。

 つまり1MPaとは容器にその体積の約10倍の空気が押し込まれている状態です。

 これはとても怖い状態です。

 なにせこの容器が割れたり穴が空いたりすると加圧されていた空気が大気圧に戻ろうと急激に膨張します。そんな空気の直撃自体も恐ろしいですが、酷い場合は容器の破片が吹き飛んできて人体に突き刺さります。例えるのであればちょっとした手りゅう弾です

 

 そしてエアコンプレッサーは大小様々あるものの、ある程度のサイズであれば1MPaの圧縮空気を1秒のうちに1Lくらいは送れる力があります。

 つまり、エアコンプレッサーのノズルを人様のお尻に突き刺して圧縮空気を打ち出す行為は、500mlペットボトル20本分の空気を体内に毎秒ぶち込んでいることと同義です。

 そんなことをされては内臓なんて容易に破裂してしまいます。

 

 実際はコンプレッサのサイズや圧力によって変わりますので雑な想定とはいえ、このくらい大雑把に例えればこれがどれだけ血迷った行為なのかイメージしやすいかと思います。

 決していたずらでは済まない結末をもたらしますので、ゼッタイに止めましょう。

 

結言

 ただの空気と言えども圧縮すると高圧ガス保安法に引っ掛かる危険物だということは、圧縮空気を扱う誰もが重々理解しておく必要があります。