忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

石炭の代わりに木質ペレット?

 もうすぐCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)が始まります。今回の議長国はイギリスです。イギリスはここ数年で石炭火力発電を急速に縮小させており、2024年には全廃することを目指しています。またイギリスを含む欧州では石炭の代替として木質ペレット等によるバイオマス発電を推し進めており、木質ペレットの輸入量が急増しています。

 そのような背景から、今回のCOP26では石炭火力を将来的にも2割以上残す日本のエネルギー政策に批判が集中する可能性があります。

木質ペレットの問題

 日本でも木質ペレットによる発電はFITの対象となることから年々規模が増加しています。今後も増加は続く見込みです。

 しかしながら木質ペレット等のバイオマス発電に対しては一部環境団体からの批判が以前から根強くあります。

レポート「バイオマス発電は環境にやさしいか? “カーボン・ニュートラルのまやかし”」を発行|認定特定非営利活動法人 FoE Japanのプレスリリース

https://www.foejapan.org/forest/biofuel/pdf/191204_2.pdf

 いくつか批判内容を具体的に紹介します。

石炭よりも炭素排出が多い

 環境団体STAND.earthの試算によると、バイオマス発電所は石炭やガス施設よりも発電量あたりのCO2排出量(Lb CO2/MWh)が多いとされています。バイオマス発電所のCO2排出量は石炭発電所の150%、ガス発電所の250%とのことです。この計算は批判的な団体による試算ですので発電所の効率などに多少下駄を履かせている可能性はありますが、バイオマス燃料は単位質量当たりの熱量が石油やガスと比べて少ないのは事実です。ただ、植林によるCO2の再固定が計算に入っていないため、あまり意味の無い比較かもしれません。

人工林のCO2吸収量は低下する

 人の手が入った自然は相当な時間を経ないと元には戻りません。だからこそ天然林・原生林は貴重であり保護されています。環境団体の報告によれば、植林による人工林は作物と同様であり、土壌の劣化や土壌かく乱によって人工林は天然林よりもCO2の固定量が減るとされています。農業においても同一作物を作り続けていれば土の力が弱っていきますので、この批判は論理的に適切だと思われます。化石燃料を多く使用する化学肥料によって生育するのであればそれは本末転倒になってしまいます。

違法業者の問題

 最も問題となるのは皆伐による森林の消失です。木質ペレットは間伐材や未利用材、おが屑やチップから生産されるというのが名目ではありますが、実態は助成金による利益を目当てに森林を皆伐して樹木を丸ごと加工するような業者がいることが環境団体によって警告されています。森林を皆伐してしまってはカーボンニュートラルであるという理屈が成り立ちません。

 

 他にも栽培・加工・輸送での問題やCO2排出の計算、炭素会計の不備などについて環境団体は指摘をしています。一方の情報だけで確信するのは適切ではありませんが、このような環境団体の意見があるということも今後バイオマス発電を進める上で留意しておく必要があるかと思います。

個人的な見解

 未利用資源を用いたバイオマスは有効利用ですので推し進めるべきかと思いますが、あまりバイオマスの規模を拡大するとロクなことにならないことは歴史から分かります。

 そもそも何故人類は石炭を用いるようになったのかです。産業革命の頃、鉄鉱石を製錬するために大量の熱源が必要になったことから当時のイギリスでは森林を伐採して大量の木炭を生産しており、それによってイギリスの森林資源は瞬く間に枯渇することになりました。その後は海外から木炭を輸入していたのですが、それではコストが合わないために目を向けられたのが石炭です。攪拌精錬法のような製鉄法が発明されて石炭で製鉄が出来るようになったおかげでイギリスの森林枯渇問題は解決しました。つまり石炭を使用していなかった当時は森林が枯渇したという歴史的事実があります。

 現代のイギリスはこの時代の過ちを再度犯しているような気がします。現代は人口・エネルギー消費量ともに産業革命当時とは比べ物になりません。当時ですら森林資源が枯渇するほどだったのに、現代社会の消費エネルギーを森林で賄おうとするのは不可能です。イギリスだけならばまだしも、COP26によって他国の石炭利用を咎めて各国が石炭からバイオマスに移行でもしようものならあっという間にバイオマス資源は枯渇してしまいます。

 繰り返しますが、バイオマス自体は決して否定的には見ていません。未利用資源は活用すべきです。しかしながら経済性を重視して規模をむやみに拡大することには慎重になるべきだと考えます。