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脆弱国家ランキングから学ぶ【スーダン】

 2021年10月25日、アフリカのスーダンで軍事クーデターが発生しました。クーデターの詳細や政治的背景については報道を待つのみですが、事前知識の学習としてアメリカのシンクタンク平和基金会(The Fund for Peace:FFP)が毎年発表している脆弱国家ランキングのデータからスーダンが元々どの程度不安定だったかを見てみます。

 今回は私の勉強記録としての意味合いが強い記事のため、不正確な情報があるかもしれません。スーダンの詳細については追って報道されるであろうジャーナリストの情報や専門家の見解をご確認願います。

 

 データ元:FFPの脆弱国家ランキング(Fragile States Index)

 脆弱国家ランキングについては過去に記事を書いています。

スーダンの地理

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 スーダンはエジプトの南に位置する、北アフリカに属する国家です。2021年の脆弱国家ランキングでは8位と高順位であり、元々不安定な国家として認識されていました。脆弱国家ランキングは順位が高いほど不安定という評価です。そもそもとして2019年にもスーダンではクーデターが起きており、不安定な政情であることは疑いようがありません。

 近隣諸国も決して安定的とは言えず、西のチャドは7位、南西の中央アフリカ共和国は6位、南の南スーダンは4位、東のソマリアは2位、紅海を挟んだイエメンは1位と、スーダンは不安定な国家のホットスポットのほぼ中央に位置しています。

スーダンのスコアと傾向

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 脆弱国家ランキングのスコアは12項目各10点で採点されており、120点が最高点です。スーダンのスコアはここ数年で改善傾向にありましたが、それでも100点以上であり大変に不安定だと認識されていたことが分かります。

 個別項目でのスコアはどれも8~10点のため、近年で変化のあった項目のみをピックアップします。

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 Security Apparatus(安全機構,治安)は徐々に改善傾向にあると見られていました。これは武力紛争の末2011年に南スーダンが独立、2012年に紛争が終結した結果、徐々に治安機能が回復していたことを評価されたものと考えられます。但しエリートの派閥や集団の不平と言った項目は9点以上を維持していることから、武力衝突が収まっただけで国民の不満は残っていたことが伺えます。

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 Economic Decline(経済の衰退)は2011年の南スーダン独立、国境紛争による悪化があり、その後も回復の兆しを見せていませんでした。油田やレアメタルなどの資源は豊富な地域ですが、政情不安定な国家へ外資が開発に参入するのは難しく、単独で破綻した経済を回復させる自力も無いことから、どの政党が政権を取っていても残念ながらこの流れを変えることは出来なかったと考えます。

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 他のと少し異なる変化をしているのがUneven Economic Development(経済発展の不均衡)の項目です。南スーダン独立前後から徐々に改善傾向を示していた不均衡が2017年頃から再度悪化へと変化しています。スーダンでは長らく議会が停止していましたが、2017年に今回のクーデターでも名前の挙がっているバシル大統領が議会の復活と首相の任命を行っています。そのため、議会の再開前後で政権による権益の独占等が発生した可能性があります。スーダンの政情についてはほとんど情報が無いため詳しいことは語れませんが、少なくともここ数年で経済の不均衡が高まっていたことは事実です。

 残念ながら開発途上国では軍権を握っている者、もしくは軍権そのものが既得権益化することが一般的になってしまっています。2019年にスーダンではクーデターが起きており、バシル大統領とその軍事派閥が政治権力から排除されました。今回のクーデターは当時既得権益層であった軍によるものであり、軍勢力の復権が目的だと考えられます。詳細情報は現地からの続報を待ちます。

クーデターに関する私見

 近年ではミャンマーでも同様の事例があったように、軍政から民政へ移管する際にはこのようなクーデターが発生する危険性が著しく高まります。民主主義を妄信する身としては如何に現政権が望ましくないといえども軍事クーデター等による暴力的な権力の簒奪には批判的な視線を向けざるを得ません。いえ、丁寧な表現を使う必要も無く、嫌いです。

 どうにか防止する策が欲しいところですが、一国家の軍隊を阻止できるような民間勢力はまず存在しません。国連PKOのような多国籍勢力を有事発生後の武力行使だけでなく民主化勢力への積極的支援ができるようになるといいのですが。いや、そんなことはできないことは分かってはいるのです。中立性を損ないますし、何処の国の人だって自国の軍人を他国のために死ぬような任務に向かわせたくはないのですから。ただ、軍事クーデターを抑え込めるのは他国の軍隊以外無いこともまた事実ではあるのです。

 現時点では国際社会が解決する術を持たないこの課題、人類が良い答えを見つけることができることを祈ります。