時に景気や為替と絡めて話題になることが多い国際移住(International migrant)ですが、ここ数年でもまた話題が再燃して日本人が海外で働くことに対しての言説が変わりつつあると感じます。肯定的・否定的な言説が尖ってきたと言いますか、問題視する意見が目立つようになったと言いますか、そういった感覚です。
個人的な見解として、日本人の国際移住が増えることはなにも良いとか悪いとかではなく、ただワールドスタンダードに近づきつつあるだけではないかと考えています。
そもそも日本人にとって海外が縁遠すぎた
日本から海外へ行く国際移住者が年々増えていることは統計的事実です。
ただ、それを是とするにせよ非とするにせよその是非を問うのであれば日本単独で見るのではなく他国との比較があって初めて意味を持ちます。
例えば人材流出リスクと絡めて日本人の海外移住が増えていることを懸念する言説などを見かけますが、他国の国際移住数や日本への流入数を比較しなければ正しく人材流出リスクを捉えられないはずであり、この手の国際的な数値を論じるのであれば統計情報は不可欠です。
国際移住に関しては国連(UN)や国際移住機関(IOM)が調査していますので、それら機関が公開している統計情報を見ることが必要です。
直近で言えばIOMのレポートが最新ですが、コロナ禍は国際移住の統計に大きな影響を及ぼしており最新の情報だとむしろ傾向が分かり難くなっているため、今回は国連の2020年国際移住者ストック(International Migrant Stock)を見てみます。
https://www.un.org/development/desa/pd/content/international-migrant-stock
この統計では総人口当たりの出移民数、つまり他国へ国際移住した人の比率が計算されています。
まず所得別の国際移住比を見てみましょう。
高所得国では1990年の7.4%に対して2020年は14.7%まで増加しています。
中所得国では1990年の1.7%に対して2020年は1.5%と若干減少しています。
低所得国では1990年の3.0%に対して2020年は1.8%と減少しています。
世界の人口は中・低所得国に多く、上記の比率は総人口比ですので比率の大小は直接比較できるものではありませんが、ここで一つの事実が分かるように国際移住を活発に行うのは高所得国で生まれた人々です。
国際移住で一番にイメージしやすいのは低所得国から高所得国への経済的移住だと思いますが、実際には高所得国間あるいは高所得国から高成長している中所得国への移動も高い比率を占めています。これは自然なことで、国際移住にはお金が掛かります。言語や文化など様々な教育訓練も必要です。それらハードルを乗り越えて国際移住を選択できるのは高所得国の人々が主となります。
次に主要国における他国へ国際移住した人の比率を抜粋してみます。
2020年の比率は次の通りです。
日本:2.2%(1990年は0.9%)
韓国:3.4%
中国:0.1%
香港:39.5%
デンマーク:12.4%
フィンランド:7.0%
スウェーデン:19.8%
イギリス:13.8%
フランス:13.1%
ドイツ:18.8%
カナダ:21.3%
アメリカ:15.3%
もちろん国際移住を行う理由は人それぞれ様々あるでしょうし、地理や文化など国際移住に対する要素は様々あるため単純に数値だけを比較できるものではありません。
しかし、日本から海外へ行く国際移住者が年々増えていることは統計的事実であるのと同時に世界的に見れば国際移住をする日本人の比率は少ないことも事実です。前述した高所得国全体での比率と比べても低く、表現は悪いですが日本人は自国内に引き籠っていたとすら言えます。
結言
データではなく意見に過ぎませんが、日本人にとって国際移住のイメージは明治時代や戦後の海外出稼ぎが強く印象付けられており、国際移住に関する誤解が一部あるように感じます。
国際移住は食い詰めて困り果てた末に行うものとは限りません。人々が自身の人生を自由に差配できるようになることでも増えます。
そして現代は技術革新と市民権利の獲得、すなわち移動や居住、職業選択や言論の自由を手に入れたおかげで人々が自らの好む国家や住環境を選べるようになった時代です。高所得国で国際移住が増えているのはまさしく後者の比率が高まっていることを証明しており、世界で国際移住の総数が増えているのは世界が豊かになったことを意味しています。
よって日本人の国際移住が増えることは単純に世界的な流れに乗っているだけであり、その是非を問うような話ではありません。むしろ比較であれば日本人の国際移住はまだまだ少なく、もっと国際移住が活発になることこそがワールドスタンダードです。そしてそれが豊かさの証明だと考えます。