忘れん坊の外部記憶域

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難民問題に関する一つの視点:日本が抱える国内避難民

 ここ数年、難民問題と入管法改正に関して色々と議論が紛糾しています。

 各国で難民の定義や国家の仕組みが異なることから、国際的に一律のルールを定めることは難しいため、日本としてどのように難民や出入国管理を対応していくか議論が深まるのは良いことでしょう。

 

 日本の難民認定が他国に比べて厳しいのは間違いありませんし、日本の入管には人権問題が指摘されていることも事実です。

日本の難民認定はなぜ少ないか?-制度面の課題から | 認定NPO法人 難民支援協会

外国人の収容問題 : アムネスティ日本 AMNESTY

 その反面、偽装難民問題を解決してもっと難民を受け入れられる体制を作るべきだという意見にも一理ありますし、そもそもの仕組みやリソースが不足していることも現実の問題として取り扱われるべきでしょう。

日本の難民受け入れに関する誤解 | nippon.com

入管法改正案について

 この議題は、移民に対する考え方や難民認定の仕組み、あるいは入管行政の在り方や国際的な比較など様々なテーマが内包されている難しい問題のため、単純な賛否ではなく「何に対して賛成して何に対して反対しているか」を細かく定義しながら議論を進める必要があると感じます。

 

 そんな難しいテーマではありますが、今回は難民問題に関して個人的に考えている一つの視点を説明してみたいと思います。

 

難民の定義と、日本の抱える国内避難民

 国際社会における難民の定義は1951年の難民条約によって定められており、その条約の定義に該当する難民を「条約難民」と言います。

 また、その後の国際社会における決議等によって難民の定義は拡大されており、「拡大された定義の下での難民」も同様に保護対象となっています。

難民保護・Q&A – UNHCR Japan

 

 そのような難民とは別に、紛争や宗教、人種や災害などによって難民と同様の境遇にいて、しかし国外に出ていない人々国内避難民(IDP)と呼ばれます。国際条約に基づく難民(Refugee)との違いは国境を越えているかどうかです。

https://www.japanforunhcr.org/refugee-facts/what-is-a-refugee

 

国内避難民の統計

 国内避難民は国際条約では難民と定義されていませんが、国連難民支援機関のUNHCRは難民と国内避難民を類似のものとして取り扱っています

 その例としては以下のようなUNHCRの記事が挙げられます。 

2021年は8930万人が、紛争や迫害などが原因で家を追われました。
そのうち、難民は約2710万人(うちUNHCRの支援対象者は2130万人、UNRWA*支援対象者は580万人)、ベネズエラ国外に逃れた人は440万人、国内避難民は約5320万人、庇護希望者は約460万人います。

そして今、ウクライナをはじめ世界各地で起こっている人道危機により、その数は1億人を超えています。

https://www.japanforunhcr.org/refugee-facts/statistics

 拡大された定義の下での難民と比べて倍に近い人数が国内避難民となっており、難民と同様に国際社会が人道的に救援しなければならない人々とされています。

 

 国内避難民はノルウェー難民協議会によって設立された国際非政府組織IDMCが統計情報をまとめています。

IDMC | GRID 2023 | 2023 Global Report on Internal Displacement

 主要国におけるIDMCの国内避難民統計と2021年の難民認定率を表にしてみると、以下のようになります。

 この表から分かることとして、アメリカだけは難民認定も国内避難民の数も多い特殊な国ですが、日本の抱える難民・国内避難民の数はアメリカ以外の他国と比べてそこまで引けを取っていません

 

 日本の難民認定率が低いこと難民認定の基準が厳しいことは厳然たる事実ではあり、ゼノフォビア(外国人嫌悪)や難民問題への無理解などが主要因かもしれません。

 ただ、難民認定率が低い理由の一つに災害による自国の国内避難民救援にリソースを割いているためである、ひとつの視点としてそう言えるのかもしれない可能性を提示したいと思います。

 

結言

 日本は自然災害が多い国のため、多くの国内避難民が居ます。2022年の45000人は過去からの推移としては少ない人数であり、大規模災害が起きた際には100万人に近い国民が国内避難民となる国が日本です。

出典:Japan | IDMC

 

 つまり、難民を[条約難民のみ]でなく[難民・国内避難民]の区分で見た場合、日本は他国と比べて少ないとは言えない人数です。

 

 この考察は難民を受け入れるべきではない、と訴えたいわけではありません日本は難民条約に加入しており、国際社会との約束や人道的見地からしても難民の受け入れは積極的に行うべきだと私個人は考えます

 ただ、そのためにはイデオロギー的視点や感情的な議論だけでなく、日本は災害が多いために他国で受け入れている難民と同等以上の国内避難民を常に抱えている状況を理解して、他国の難民を受け入れるためのキャパシティの議論が必要だと思う次第です。

 

 

余談

 難民問題でよく話題となるドイツの国内避難民の統計を見ると、2008年から2022年までの累計で、日本は470万人、ドイツは7万4千人です。

 ドイツでは2013年に大規模な洪水被害があったため、その年だけ国内避難民の人数が跳ね上がっています。

 日本は半分強が台風、3割程度が地震、その他にも地滑りや洪水、火山活動によって国内避難民が生じています。

 自然災害の少ない国は、ちょっとうらやましいですね。