忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

たまには時事問題にも触れてみる:国立大学法人法改正案に関して

 相変わらず歯医者は苦手です。今の歯医者さんは腕も優れており良いところなのですが、それはそれとして極度な嘔吐反射により歯医者そのものが苦手なことはどうにもなりません。歯医者に行くだけでその日の活動ポイント残高がマイナスになってしまうのはどうにかしたいものです。

 

 今日は少し難しめなことを考えていてそれで記事を書こうかと思っていたのですが、歯医者に行ったらそんな気力はさっぱり無くなりました。そもそも何を考えていたのかすら記憶から全て消し飛びました。歯医者恐るべし。

 

 そんなわけで、消え去ってしまった記憶の事は忘れて今回は珍しく時事的な話をしてみましょう。ちょうど目に入った案件を取り扱ってみます。

 

学問の自由に関して

 国立大学法人法の改正案が衆院を通ったことについてXで騒がれているのを見かけました。主な批判の声は学問の自由が阻害されることに対する懸念に起因しているようです。

 ただ、個人的な見解としてですが、この改正によって学問の自由が阻害されるかどうかはなんとも言い難いかと考えます。

 

 改正案の主目的は国立大学法人の管理運営の改善や教育研究体制の整備・充実です。そのために事業規模が特に大きい国立大学法人に運営方針会議の設置中期計画の決定方法の特例の創設資金調達方法の対象拡大資産管理方法の弾力化を講じることが目的とされています。

国立大学法人法の一部を改正する法律案:文部科学省

 

 このうち、主に問題視されているのは運営方針会議の設置です。運営方針委員は文部科学大臣の承認を得た上で学長が任命します。この文部科学大臣の承認が必要な点において、大学の自治と学問の自由が政府によって阻害されることが懸念されています。

 

 ここで少し現状を整理してみます。

 まず日本国憲法23条「学問の自由は、これを保障する」でも謳われている”学問の自由”とは何かと言えば、『真理探究のためにいかなることを研究し、発表し、教授しても、政治的・経済的・宗教的な諸権威による侵害を受けないこと』です。

 この学問の自由がどの程度保障されているかの代表的な指標にFAU(ドイツの大学)とV-dem(スウェーデンの独立研究所)が公開している学問の自由度指数(Academic Freedom Index:AFI)があります。

 過去にも記事にしたことがあるように、この指標において日本は先進国の中では最低レベルに学問の自由度が低いと判定されています。

 そして日本の学問の自由度が低い理由は公権力による制約ではなく大学の自治に課題があると判定されています。

 0-4のレンジを考慮すれば、次のように評することができます。

  • 公権力による学問への制約はほとんどない(3.25)
  • 研究課題や教育カリキュラムの設定、学術的交流や普及、キャンパスの完全性は中程度に制限されている(2.42)(2.69)(2.54)
  • 大学の自治は最小限しか行使されていない(1.73)

 

 以上から分かることは、適切な自治を行わず、研究や交流、キャンパスの完全性を阻害し、日本の学問の自由を阻害しているのは大学や学者そのものです。

 私たちは学問の自由を阻害するのは政府や国家だと思いがちですが、先に提示したグラフからもそれが誤解であることが分かります。

 

 つまり、今回の改正案は主目的である国立大学法人の管理運営の改善や教育研究体制の整備・充実を見るに、現状分析や対策として適切であると私は判定します。

 大学側の管理・自治に手を入れることは現状分析として適切であり、それを外部から監視する仕組みを作ることは対策として妥当でしょう。

 

改正案自体には疑問有り

 よってXなどで主に見かけるような、学問の自由を錦の御旗に掲げて批判するのは筋が悪いと思っています。学問の自由を主に阻害しているのは大学の自治が機能していないことが原因だと評価されていますので、まずは大学側が襟を正すことを要求されてしまいかねません。

 

 ただ、改正案の目的は適切だと考えますが、改正案には少し疑問があります。

 

 大学の自治を監視する運営方針委員会には適切な有識者を置く必要があるでしょう。そうでなければ管理運営の改善は図れません。

 それを文部科学大臣が承認して学長が任命するそれで本当に適切な有識者が選べるのかと言えば、少し疑問です

 当然ながら大学で一番の権力者は学長です。その権力者が任命する委員会が学長に忖度しないとは思えません。また現状で自治を行使できていない方が選ぶ委員会が監視できる能力を持っているかも疑問です。

 文部科学大臣についても同様です。監督官庁として大学の自治が機能していないことには文部科学省にも多大な責任があり、今までできていなかったのにそれができるようになったとは思えません。

 そもそもこの"承認"も意味が曖昧であり、文部科学大臣が口を挟める程度に権限が強ければ学問への政治介入で問題ですし、日本学術会議の推薦と同じような形だけの承認であれば日本学術会議の件と同じような問題が将来発生することになるでしょう。

 

 どうにも腰が引けているというか、あまり効果的な改正内容ではないと思えるため、この改正案は少し疑問です。

 

結言

 難しいのは分かっていますが、税金から補助金を出すからステークホルダーではない第三者の専門家を外部から招き入れて雇え、とするほうが監視として機能すると考えます。

 厳しい言い分ですが、文部科学大臣の承認で学長が任命する委員会が大学の管理運営を改善できると考えるのは、少し楽観が過ぎるかと思います。