■化石燃料を完全に廃止することになっては目先の投資すら入ってこなくなり国家として破綻することが明白であることから可能な限り化石燃料の延命を図りたい産油国
■気候変動によって海面が上昇することで将来的に国土が無くなるリスクを背負っておりただちに化石燃料の使用を廃止したい島嶼国
■自国にある化石燃料を使用できずに高価なエネルギーシステムを先進国から購入させられることはかつての植民地主義と何が違うのだと反発するアフリカ諸国
■環境問題に大きな責任があり率先して動く必要はあるものの出費できる金には限度があることから適度な落としどころを探りたい先進国
■気候変動だけに構っていられず貧困や健康など自国の問題を解決して自国民の生活向上を最優先としたい開発途上国
■国家の枠組みで議論している以上仕方がないこととはいえ一人当たりで換算すれば明らかに不平等な責任に文句を言わざるをえない中国やインドなど人口の多い国
国際政治は本当に大変です。これらの意見を一つにまとめてくださいと言われたら逃げ出したくなります。
COP28において「化石燃料からの脱却を方向性として示した」ことは各国の思惑を考慮すればよくもまあここまで妥当な落としどころを設定したものだと感嘆します。
もちろんこれはそれぞれの立場からすればまったくもってベストな結論ではありません。化石燃料を使いたい側からすれば望ましくない方向性ですし、化石燃料を廃止したい側からすればまったくもって不十分な取り組みです。
しかし誰もが満足できるベストな選択肢は大抵の場合存在しません。だからこそ利害調整としての政治が必要になります。
まだ露悪的なほうがマシ
各国がそれぞれ自国の主張をして、それがすれ違い噛み合わない場合はどうするかを議論して誰もが完全に満足はしないものの妥当だと判定できる落としどころを調整していく。
まさにこれこそが政治です。参加者は伊達に各国を代表しているわけではなく、実に立派な政治家ばかりだったと思います。
政治とは時に露悪的です。化石燃料の使用継続を自国への間接的な攻撃だと表現したり、先進国の資本によって途上国を縛ることは植民地主義だと批判することはとても直接的だと言えるでしょう。
ただ、私は政治の場においてそのように露悪的なほうがまだマシだと思っています。
それよりも悪質なのは悪い部分を口にしないことです。
その一例として、COPに関する様々なニュースの写真で写されていた環境団体の掲げる「NO FOSSIL」のキャッチコピー、これは個人的にまったく好みではありません。キャッチコピーそのものではなく、それを掲げる環境団体をあまり好みません。
言い分は分かります。化石燃料が永遠に使えるわけもなく、化石燃料に依存しない社会への転換は人類にとって必要なことです。その点は大変同意します。
しかしながら、とてもとても意地の悪い言い方をしますが、直ちに化石燃料の使用を止めるということは産油国に暮らす何千万人もの人々の生活を破壊して内戦を引き起こすことや、電化が行き届いておらず何百万も肺の病気で毎年亡くなっているアフリカの女性を見殺しにすることと同義であり、たとえそれでも必要なのだと主張するのであれば環境団体はせめて露悪的にでもそう表現すべきだと考えます。
「未来の人々のために」と言うだけではなく、その目的に不可避な「未来の人々のために現在のお前たちが犠牲になれ」と正直に言うべきです。
悪い部分を隠して言うべきことを言わずに綺麗な部分だけで押し通そうとすることは政治的に誠実な態度ではありません。なにせ「未来の人々のために」は綺麗で正しい誰もが否定できない立派な信念であり、それが押し通ってしまうとその陰で損害を受ける人々が政治的交渉の場に立つことすらできなくなります。
綺麗なことだけを言わずに露悪的にでもはっきりと述べるからこそ「それは認められないから別の妥協点を探そう」と政治的交渉が始まるのですから、隠すべきではありませんし、だからこそ政治の世界では時に露悪的であっても率直に意見を述べることが良しとされています。
結言
「未来の人々のために」
このような国際政治の場では誰もがそう思って行動しています。どれだけ自国の利益を追求しようにも国際社会の同調圧力はそれを許しません。
ただ、それぞれの管掌している範囲が異なるだけです。これがベストだと自らが信じる選択肢があったとしても、それはほぼ必ず万人にとってのベストではありません。
だからこそ誰がどれだけ犠牲を負担するかを調整しなければならないのであり、そういった政治的交渉を避けて綺麗な部分だけで自らの主張を押し通そうとするのはズルいのではないかと個人的に思っています。
