仕事ができない若手社員に関するアンケートの続きです。
仕事・能力に関する項目は以下です。
2:仕事が遅い、要領が悪い、ミス・不注意が多い
5:仕事の覚えが悪い、理解力が低い
8:態度が悪い、誠実さ・素直さに欠ける
9:気が利かない、臨機応変な対応ができない
10:優先順位、時間管理ができていない
これらの指摘は仕事の全体像が見えていないことが原因です。ゴールのイメージが分からず、次にやることが分からないからこそ要領良く仕事がこなせず、臨機応変な対応ができず、優先順位が付けられないのです。つまり、自主的・能動的に仕事をこなせるようになるためには、全体的な仕事の流れを理解させ、やるべきことを全て把握させることが必要になります。
要領が悪く仕事が遅いのは今何をすべきかを理解していないからです。まだ知識不足の若手はやり方を指導されてもせいぜい2割程度しか理解できません。こればかりは知識が充足するまで根気よく繰り返し指導するしかありません。
また指導側は教える業務のKnowWhyを充分に理解している必要があります。業務の背景や本質的な目的を理解して教えなければ、若手は上辺だけのやり方を覚えることになり、業務レベルが漸進的に劣化することになってしまいます。
気が利かず、臨機応変な対応が出来ないのは次に何をすべきかを理解していないからです。仕事を割り振る際には必ず先のアクションを伝達しましょう。できれば最初にやるべきことを全て提示して、全体像を把握させることが望ましいです。「なぜこの資料を作るのか」「この資料は後でどう使うのか」などを説明しておくことで、若手も多少は考えながら作業をすることができるようになります。
優先順位が付けられず時間管理ができていないのはその先に何をすべきかを理解していないからです。仕事の全体像を把握し、受け取った仕事の量をすぐに理解できるようになるには長い経験が必要です。個々の作業に掛かる業務時間の見積もりも取れず、どれだけ残りの業務をこなせば仕事が完了するかを分かっていない以上、優先順位をまともに付けられるわけがありません。一人前に育つまでは優先順位付けや時間管理をするのは上司や先輩の仕事です。
そもそもの前提として、若手に自主性や積極性を求めるのは難しいものです。
確かに自主性や積極性は必要ですし、いずれは身に付けてもらいたい能力です。しかし仕事や会社の組織をよく分かっていない状態で頑張られてもありがた迷惑になってしまうことが多々ありますし、有効な工夫をすることもそうそうできません。
そのような無駄や徒労をするよりも、まずは上司や先輩の指示をよく聞き、内容を理解し、忠実に実行できるよう教育するほうが優先です。「言ったこと以上ができる」を求める前に、まずは「言われたことをやれる」ようにしなければいけません。
とは言っても、指導側も人間ですので積極的な若手には教育をしやすいものです。向上心が無く、説明しても聞いているのか分からない顔をして返事もせず、何も聞いてこない人間に教育をするのは大変に難しくあります。
つまり、若手に必要なのは「積極的な仕事」などでは無く、「積極的に指導を受ける姿勢」です。
人が成長できるかどうかは「能力:aptitude」と「態度:attitude」がファクターとなります。
能力については分かりやすく、10を教育されても10吸収できる人と5しか吸収できない人の差が現れるのは能力が違うからです。これは先天性や幼年期の成育に大きく影響を受けるため、変えることは難しくあります。大切なのは能力を高めることではなく、自己の能力を充分に把握することです。スヌーピーが言うように、
ルーシー:「Sometimes I wonder you can stand being just a dog…」
「時々、どうしてあなたが犬なんかでいられるのか不思議に思うよ。」
スヌーピー:「You play with the cards you're dealt…whatever that means.」
「配られたカードで勝負するしかないのさ…それがどういう意味であれ。」
ということです。無いものを求めるより、有るものを有効活用しましょう。
態度は個人の性格によるものですが、これは努力によって後天的に変えることができます。学ぶ姿勢がある人、つまり向上心があり、素直で無知を恐れず、自分から動く人は能力の差を容易に覆します。知識や技術は脳のニューロン/シナプスの作用に従い繋がりが多くなるほど連鎖的に高まっていきますので、活用できる手持ちのカードが増えれば増えるほど加速度的に成長速度が高まります。
ちなみに、ハーバード大学の研究結果では、学歴や知能は業績の高さとさほど相関は無く、好業績者にはいくつか共通の行動特性がある、と判明しています。これをコンピテンシーと呼ぶのですが、それについては長くなるのでここでは省略します。
学校での勉強は系統学習によって行われます。これは系統立てて配置された学習内容を順番に学習していく方法で、短時間で多くの情報を伝達できることが長所ですが、その反面関心や態度・意欲が引き起こされにくく主体的な学びとなりにくい短所があります。
系統学習と対をなすのが問題解決学習です。暗記のような受動的なものから脱却し、自ら問題を発見し解決していく能力を身に付ける方法で、今どきの言葉で言えばアクティブラーニングです。
社会人に求められている学習とはこの問題解決学習を指します。社会人にとって勉強とは教科書を開いて暗記することではないのです。
前述したように仕事とは「未知の誰もやっていないこと」をすることです。教科書を開いてもそのやり方はどこにも書いてありません。自ら課題を作り、能動的に仮説を検証し、試行錯誤のプロセスを経てその課題を解決する、その過程を経験することこそが勉強なのです。教科書に書いてあることなんてものは過去に誰かがやったことですし、そもそもの前提として教科書の中身を全て理解して初めてスタートラインです。
ニュアンスが難しいところですが、「教科書に無い」ことをやるというのではなく、「教科書を超えた」ことをやるのがプロです。そのためには教科書程度のレベルは当然マスターして、その先を問題解決学習によって主体的に学ばなければいけません。
そもそも、会社は何故新卒者を採用するのか、色々と目的はありますがその一つとして「自社の求める理念や方針を持って生まれた社会人として育成できる」ことがあります。経営や企業の継続的な発展を見据えて育成することを前提に採用するのです。
よって、「育成を受けて成長すること」が若手の最大の仕事です。厳しい話ですが、成長しない若手は極論を言えば組織には要らないです。
そして、チーム論・組織論としてネガティブを改善することよりもポジティブを伸ばすほうが効率が最大化します。育たない人間は放っておいて、育つ人間に注力すべき、ということです。組織のリソースは無限ではありませんので、会社やチームに「育たない」と思われた若手は真っ当な教育を受けることができなくなります。つまらない仕事ばかり押し付けられて、毎日叱られて、そのうちチームから放り出されるも邪魔者扱いでどの部署も拾ってくれない、というような社会人生活を歩みたいのであれば止めませんが、多分あまり面白くはありませんのでおすすめしません。
また、若手に求められるものは「業務に必要な知識を事前に持っている」ことではありません。そんなことは入社してから覚えてもらうだけです。若手は高校・大学を卒業しているということで、「卒業するだけの学力を身に付ける術を持っている」ことを期待されているのです。日本の学府は入学が難しく卒業は容易ですのでちゃんと勉強しない学生でも卒業できてしまうという問題が残念ながらありますが、そんなことは企業側としては知ったことではなく、義務教育以上の学府を卒業している以上自ら勉学をできる人間であることを前提とします。ですので、高卒・大卒・院卒で勉強ができない若手というのはお話にならないのです。
全体的に厳しい話になってしまいましたが、何を求められているのかを知っていると適応しやすくなると思います。