そこそこ以上の規模の組織で仕事をしていれば若手に知識を伝達していく必要に駆られます。製造業では技術伝承や技能伝承などと呼ばれるものです。ベンチャー企業のように小規模組織であれば個の力を発揮することが重要となりますが、組織の規模が大きくなると誰かが欠けるだけでビジネスが回らなくなるようなリスクを低減するために個では無くチームや集団としての力が重要になるからです。俗にいう属人性というものを排除する方向に組織の理論は傾きます。
そのようなわけで私も若手への知識伝達、技術伝承に余念が無いのですが、それが上手くいくかどうかは互いの能力やタイプに依存することを日々実感するばかりです。
なによりも大きな課題は私のコーチングスキルです。どうにもティーチングに偏ってしまっており、教えることに熱中し過ぎて相手方の気付きや自立心を養う意識に欠けていると考えています。もっと相手からの能動的な行動を引き出せるよう、相手の特性に合わせたコーチングを心掛けなければいけません。社会人らしくPDCAを回して改善していく所存です。
若手のタイプ
相手の特性に合わせてコーチングするために、若手のタイプを分類してそれぞれにどう対処するかを考えてみます。
まず前提として人の学習効率は能力(aptitude)と態度(attitude)がファクターとなりますが、このうち能力に関しては先天的なものが大きくこちらではどうにもならないため置いておきます。こちらが考慮できるのは態度だけです。態度は大きく分けて2つ、やる気と向上心に分類できると考えます。
似たようなものに見えるかもしれませんが、やる気は目に見える外的なものであり、向上心は自己の成長を求める内的なものであるという違いがあります。やる気は瞬発力、向上心は持久力とも例えることができそうです。他にも筋線維で言えば速筋と遅筋、ビジネス用語で言えばインセンティブとモチベーションと言えるでしょう。
やる気と向上心、両方を備えている若手を育成するのは容易です。なにせこちらが何もしなくても自ら邁進し、学習し、勝手に成長していきます。コーチング側としては方向性を誤らないように進路を示し旗を振ってあげるだけで良いでしょう。このタイプはとても楽で助かります。
逆に両方を備えていない若手を育成するのは不可能です。やる気も無く、成長する気も無い人を育てることができる人は居ません。どれだけ優れたコーチだとしても話を聞かない生徒を導くことは無理です。残念ですがやる気も向上心も不要な単純作業、マニュアル業務だけをやらせる以外はありません。本人が成長したいと望み、やる気を出すまでは。
やる気はないけども向上心のある若手には複雑なことを考える必要はありません。積極性が少し弱かったり自己主張が控えめであったりと、目に見えて貪欲では無いというだけです。好みを把握して適切なインセンティブを設計し、やる気が出るように仕向けることで徐々に伸びていくことができます。誰しも成長に貪欲であるべきだ、などという期待はすべきではありませんし為すべきことを為せるようになればそれで充分です。
もっとも指導に困るのはやる気はあるけども向上心の無い若手です。どうにもこのタイプが一番育成に苦労します。やるぞやるぞという気合には満ち溢れているのですが成果を出すための努力は為さないところが特徴です。積極的かつ果敢に挑みはするのですが野暮ったい努力や労苦は避ける傾向にあり、眼前の問題へ立ち向かうために必要なスキルを身に付けるのではなく現時点でのスキルで問題に対処しようとします。そのため学ぶべきことを指示しても学ばず、やるべきことを指導してもなかなか動きません。
なまじやる気はあるために見捨てるのも忍びないのですが、どうにも指導を受け入れてくれないために途方に暮れる思いとならざるを得ません。挑戦すること自体は尊い行為なのかもしれません、しかしそれはやらないよりもマシという話であって、結果を伴わせる必要もあることを理解してもらいたいところです。
識別方法
タイプの識別は比較的簡単です。重要度が低く、しかし少し学ばなければ達成できないような軽いタスクをいくつか振るだけで識別できます。
やる気と向上心を持っているタイプは即日提出してきます。
どちらも無いタイプはタスクを放置します。
やる気はないけど向上心があるタイプは時間は掛かりますが提出してきます。
やる気はあるけど向上心が無いタイプは少し遅れて、かつ未達成となります。頑張ったんですけど駄目でした、というような言葉と共に。頑張るという言葉の捉え方が他と違うのです。努力して成長し結果を出すことではなく、挑戦すること自体を頑張ることだと考えています。
最後に
やる気はあるけど向上心が無いタイプをどう指導すればいいかが育成における現在の研究テーマです。やる気の引き出し方に関しては様々なデータがありますが、他人の向上心を引き上げる方法はどうにもなかなか、難しいものです。