忘れん坊の外部記憶域

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手を引いていくか、それとも並走するか~技術者の教育

 上司から部下へはどう指導すればいいか、新人のOJTはどうやるのがいいか、これはもう実に様々な意見が各所で毎日のように語られています。個々人の個性や目的としている教育成果が異なる以上絶対的な正解は無く、だからこそ無数の意見が乱立しているわけですが、その中の一つとして私も思うところを意見してみたいと思います。

 今回は、メーカーにおいて新人を自律した技術者として育成するにはどう教育すべきか、という視点で考えます。つまり単純作業ができるようになることではなく、前例が無いことに挑戦したり新しいモノを作るために自分で考えて自走できる自律した人材の育成がテーマです。

 

2つのタイプ

 新人の育成方針には大きく分けて2つあると考えています。命名は適当ですが引率型並走型と名付けましょう。

 前者の引率型は、都度やり方を教えて手本を見せ、一歩一歩確実に前へ進めるよう手を引いてあげるようなやり方です。山本五十六が言うところの「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」を重視する方針と言えます。英語で言えばティーチングです。

 後者の並走型は、指示し過ぎないようにして相手に任せ、様子を見て助言をし、必要な時にだけ手を貸すようなやり方です。山本五十六が言うところの「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」を重視する方針と言えます。英語で言えばコーチングです。

 このどちらを重視するかについて社内でよく揉めています。上の人は前者のやり方で育てろと言うのですが、私としては後者のやり方を重視したいのです。

 

上の考えも分かるけど

 昨今の人手不足、猫の手も借りたいような世の中にあって新人をのんびり育成している暇など存在しない、とにかく即戦力になるよう能力を引っ張り上げて使えるようにしろ、言われたことが出来るようになれば充分だ、という上の意向は分かるのです。分かるのですが、それによって出来上がるのは技術者ではないのです。少し嫌な言い方をしますが、それは作業者です。

 確かに設計のやり方やドキュメントの作り方、計算式の適用方法や試験のやり方など、手を掴んで引っ張っていってあげれば同じ動作は1年程度で覚えられます。書類作りを任せればちゃんと作れるようになりますし、検証試験や製図を頼めば決まった通りのやり方で行えるようになります。

 しかし技術者に求めているのは上司や先輩と同じ動作をすることではないのです。同じ動作をするのであればそれこそアルバイトに任せればよく、技術者に求めているのは同じ思考力です。

 

私たちが知らない道を進んでほしい

 技術者の仕事は手を動かすことではなく考えることです。そのためには自立的に考え、自律的に行動できる人へ育ってもらう必要があります。定型業務をこなすのではなく、非定型業務をさばけるようになって欲しいのです。

 引率型の教育は確かに定型業務を覚えるには最適な方法です。しかし手を掴んで引っ張っていったところまでしか辿り着くことができません。引っ張って連れてこられただけであり、決して自走してきたわけではないのですから。それでは私たちが歩んできた道と同じ道を後ろに付いて歩むことしかできず、自ら新しいモノを考えたり新しいやり方に挑戦するような非定型業務に対応することはできません。

 そうではなく、自力で走り回ってあっちこっちへ飛び回り、新しい道を見つけることこそが技術者です。そのためには自走する能力が必要不可欠であり、それは手を引っ張って引率するのではなく、自力で走る姿を見守り補助する並走型でなければ育てることができないと考えます。

 

メーカー技術者がそれじゃ困る

 極論ですが、「先輩と同じ設計が出来ます」という若手の数がいくら増えたって新製品は生まれません、そんなメーカーは遅かれ早かれ潰れます。

 だからこそ目先の作業をこなすことを重視するのではなく、時間を掛けてでも自走して新しい道を切り開くような将来役立つ技術者を育てるべきだと思うのですが、まあ、どうにも上の方針とは合わないようで・・・

 

 

余談

「教えないから勝手に技を盗め」というような古式ゆかしい方法、何も教えず、見守らず、放牧するように育てるのは並走型ではなく放置型と言えるでしょう。放置型は、まあ、基本的には論外かと・・・自律させるにしてもある程度のコーチングは必要だと思います。