忘れん坊の外部記憶域

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国際政治の考え方~アナーキズムの意味と日本の立ち位置について

国際社会はアナーキズムが支配している

 国際政治や国際社会を理解する上で最も基本となる考え方として、

「国際社会はアナーキー(無政府)である」

ということを理解する必要があります。順を追って説明してみましょう。

 文明国では暴力を振るえば警察が捕まえに来ますし、犯罪を犯せば法によって裁かれます。暴動が起きれば軍隊が制圧するでしょう。それは国家権力によって警察権や軍権、つまり暴力が独占されているからです。集団の獣性を制御するために国家権力がそれを統括し、その国家権力が暴走しないように選挙によって民衆が監視する仕組みとしているのが民主主義国家です。

 残念ながら暴力に対抗できるのは暴力だけです。銃を突き付けられてそれに抵抗するには同等の武力を持つ以外には無く、話し合いによる解決はありません。話し合いは銃を突き付けられないようにする前段階の工程です。そして往々にして略奪を求める暴力の行使者は話し合いに応じることはありません。銀行強盗にただ止めなさいと言っても無駄だということです。

 アメリカで銃規制ができないのは土地が広すぎて警察がすぐには来れないためです。そのため市民は不逞の輩から身を守るために武装することを選択しています。

 中国のように選挙が無い国では国家権力の独占する暴力が暴走したときに止める方法がありません。そのため天安門事件のようなことが起こり得ます。

 我々が日常的に暴力から切り離されて生活ができているのは国家権力に暴力を負託しているためです。それは犯罪に巻き込まれたとしても法の裁きを下すために警察が動いてくれるという信頼関係があるからこそです。先進国では70%以上の国民が警察と軍隊を信頼していると国連の意識調査では出ています。途上国ではこれが低く、そのために市民は暴力と切り離された生活を送ることができていません。

 国際社会にはこのような警察や軍隊がいません。つまりアナーキー(無政府)な状態です。国際法や国際司法裁判所などは存在しますがその法を強制するための能力を彼らは持ちません。法が機能するために必須の能力である暴力を保有していないためです。犯罪国家をしょっ引いて牢屋にぶち込む警察力が無い以上、言ってはあれですがやったもん勝ちです。とてもシンプルな話で、アメリカや中国、ロシアのような大国が国際法に反して他国を侵略してもそれ以上の暴力を国際社会が保有していない以上誰にも止められないわけです。

 これは別に大国に限定された話ではありません。2020年にはアゼルバイジャンとアルメニアがナゴルノ・カラバフ地域を巡って戦争をしましたが、国際社会はこれを止める術を持ちませんでした。精々が非難声明に留まっており、多くの国は中立を維持しました。

アナーキーの例 

 学校で例えると分かりやすいかもしれません。国家を生徒として例えます。普通の学校であれば生徒同士が喧嘩を始めると誰かが体育教師あたりを呼びだして喧嘩を止めます。この教師が警察権や暴力に相当します。学校における教師は大人という身体的な優越以外にも成績や進路という生徒の将来すら握っていますので、これはまさに力の象徴です。喧嘩をすれば教師がやってきて怒られるし内申点も下げられて困るという抑止力が働くため、少なくとも生徒は教師の目が届く範囲では喧嘩をしにくくなります。

 国際社会はアナーキズム、つまり教師が存在しない学校です。控えめに言ってカオスになるでしょう。体が大きく力が強い子がクラスのボスになります。喧嘩が起きてもなかなか止められないですし、止められるのはボスのように強い子だけです。ボスが喧嘩を始めた日には誰にも止めることができないでしょう。生徒たちは喧嘩に巻き込まれないようにグループを作って徒党を組んだり、何かを差し出して強い奴の舎弟になったり、殴られないようにナイフを懐に忍ばせたり、ということが現実に起きているのが国際社会ということです。

 国際社会を語る上では様々な概念があります。リアリズムやリベラリズム、コントラクティヴィズムやポストコロニアリズムなどです。これらは全て生徒間がどのような関係を構築して喧嘩を避けるかという方法を様々な切り口で説明するためのものです。ただベースとなる考え方は「国際社会はアナーキー(無政府)である」ということに変わりはありませんので、まずはこれを押えておく必要があるのです。

覇権国家による平和

 現代はパクスアメリカーナの時代と言われています。かつてのパクスロマーナ、覇権国家ローマによる平和をモジった表現です。ようはボスが圧倒的に強くボスに殴られてはたまらないので、他の生徒たちが大人しくなってあまり喧嘩をしなくなっている状態です。

 ボスが弱かったり明確なボスがいない場合はあっちやこっちで喧嘩が起きてしまいますが、圧倒的に強いボスがいるとある程度の平和が誕生します。これは猿やライオンの群れでも同じことが言えますので集団の本質なのでしょう。

 よくアメリカがいるから戦争が起こるというような言説がありますがこれは明確に誤りです。別にアメリカがいなくても戦争は起きます。フォークランド紛争、アフガン侵攻、インドシナ戦争や中越戦争のように、第二次世界大戦以降の戦後史を見るだけでもアメリカに関係ない戦争のほうが多いです。またアフガニスタンの事例を見るとよく分かるのですが、アメリカがアフガニスタンから撤兵を始めた瞬間に内乱が激化してISISのようなテロ組織が地域を支配して暴力が無数に発生しました。ボスの目が届かないとすぐに喧嘩が起きると分かったため、当時のオバマ大統領は撤兵を断念して逆に増強しています。

 覇権国家には明確な定義はありませんが、まあ、その時代を代表する強い国のことです。現代ですとアメリカと中国、ロシアが名実ともに覇権国家、イギリス、ドイツ、インド、日本、イスラエルあたりが準覇権国家です。

 地政学的な視点で見れば、アメリカは世界中に影響力を持つほどのシーパワーを持っており、中国はユーラシア大陸でダントツのランドパワーを保有しています。ロシアは少し弱体化していますがハートランドを保有しています。準覇権国は覇権国家への挑戦権を持っていませんがポテンシャルは持っている国々です。

 覇権国家のうち頭一つ飛びぬけているのがアメリカです。ロシアは一度アメリカに挑戦しましたが負けてしまったため現在は大人しくなっています。中国は現在絶賛挑戦中です。

 日本は小国ではありませんが準覇権国家である以上、最低でも覇権国家の1つとは仲良くする必要があります。その気になったら挑戦できるポテンシャルを持つ国を自由にさせておくほど覇権国家は甘くはありません。現代の覇権国家3国全てと敵対した場合は真っ先に潰す国ランキング1位の座をゲットしてしまいます。複数の覇権国家に睨まれるというのは本当に危険な事態です。第二次中東戦争ではアメリカとソ連を同時に敵に回したせいでイギリス、フランス、イスラエルの準覇権国家3か国ですら即座に撤兵しました。

日本のポジション

 さて、では日本としてはどういう立ち回りをすべきでしょうか。

 まず現状でのベストチョイスはアメリカと仲良くすることでしょう。正直言って中国やロシアと組んでも現在のアメリカには勝てません。米軍も縮小を続けているとはいえ今だ世界最強であることに疑いはありませんし、アメリカに殴られると痛いでは済まないことは歴史が証明しています。

 その上で中国かロシアのどちらかを選択して友好を深めることが安全保障上は望ましいです。敵対的な覇権国が1つであれば他の2つと仲良くすることで高レベルの安全保障を保つことができるでしょう。どちらを選ぶかはアメリカの状況次第です。共和党政権下であればロシア、民主党政権下であれば中国でしょうか。ただ今のアメリカは民意を汲んで議会が反中国を推し進めていますが、元々民主党はロシアとの関係が悪いため、困ったことにロシアとも中国とも敵対的になってしまっています。日本としても下手に動けない状況です。

 覇権3国全てと仲良くするのは危険です。中国とロシアは挑戦権を持つ以上常にどちらかもしくは同時にアメリカと敵対する関係性にあります。アメリカの敵対国と仲良くしていてはアメリカに睨まれることになるので、3国同時はかなり綱渡りになります。安倍総理はかなり上手く3国との友好を進めていましたが、あれはトランプ大統領との個人的な交友関係あってのものであり、他の人が真似をするとヤケドすることになります。

 さらに言えば中国とロシアは隣国かつランドパワー国家同士のため基本的に敵対関係にありますので、やはりどちらかを選択したほうが無難です。

 反対に、兵法三十六計における遠交近攻の考えで欧州や南米とは仲良くしたほうがいいでしょう、どこかと揉めた時に背後を守ってくれたり挟み撃ちにしてくれる存在は大切です。