忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

仕事の理想は「貴方が居なくてもいい状態」を作ること

 若手社会人に向けた仕事に対する少し意識高い系の話をしてみましょう。

仕事と作業の違い

 仕事作業は明確に別物として考える必要があります。仕事とは付加価値を付ける行為であり、作業は付加価値の付かない行為です。仕事の途中で作業が発生することはありますがその逆はありません。いずれも給金の発生する業務ではありますが、その本質的なところは正反対にあると言っていいでしょう。

 例えばマニュアル通りに接客をするのは作業です。上司に言われたデータを取って整理するのも作業です。それに対してマニュアルの不備を提言したりデータのまとめ方を上司が見やすいように工夫したりするのが仕事です。誰がやっても同じようにできるものは作業であり、個々人の思索やアイデアによって良い状態へ付加価値を乗せてブラッシュアップされるものが仕事です。

 つまり本質的に仕事は属人性を伴うものとなっています。誰がやっても同じ状態に対して付加価値を伴わせるには誰でもない個人の資質に拠る必要があるからです。

マネジメントと属人性

 しかしながら組織の運営において属人性が高い状態は不都合もあります。個々人の資質に依存するということは、その人が抜けた場合に業務が回らなくなるリスクがあるからです。よってマネジメントの観点からすれば属人性は低いに越したことはありません。誰が居なくなっても回せるように業務から属人性を排除する必要性はマネジメントに携わったことのある人であれば実感的に理解できるかと思います。

 では誰でも回せるような作業だけやっていればいいのかと言うとそういうわけにもいきません。同じものを投入し続けているだけでは市場での競争において競合他社にいずれシェアを奪われてしまうでしょう。競争力を上げるためにマネージャーへ課せられた仕事は、組織の業務遂行能力をより良くすることです。

属人化と排除のループ

 よって理想の仕事手順は次の通りとなります。

  • 既存の作業を習熟してこなせるようになる
  • 既存の作業にアイデアを付け加えてより良い状態へと付加価値を乗せる(属人化)
  • レベルの上がった業務をマニュアル化して誰でもできる作業に落とし込む(属人性の排除)
  • 人に教育して誰でもこなせるようにする
  • 浮いた時間で別の作業を学ぶ
  • 最初に戻る

 つまり「貴方が居ないとできないハイレベルな仕事」を作ってこなせるようになった上で、そのハイレベルな仕事から属人性を排除して「誰でもできる作業」に落とし込むことが理想的な仕事のループです。このループこそが漸進的に業務の質を向上させる最も優れた方法です。

 重要なのは一度属人化して業務のレベルを引き上げるところです。何年も同じ作業を繰り返すだけでは業務のレベルは上がらず市場での競争に勝つことはできません。停滞は相対的に見れば後退と同義なのです。一度属人化して業務レベルを上げることが仕事の最も重要なポイントと言えます。

貴方が居なくてもいい状態

 仕事とは付加価値を付ける行為であり、「貴方が居ないとできない」業務があるというのは立派に仕事をしている証拠です。しかしそれは組織運営上のリスクでもあります。

 実のところ、仕事において最も難しいのは「貴方が居ないとできない」業務を無くすことです。マニュアル化や人への教育は通常の業務とは別の技能が必要になることから単純に難しいですし、そのための時間的余裕や資源を確保するのも大変なことです。組織の人員配置によってはそれが望めない場合もあります。心理面で人に仕事を奪われることに忌避感を持つ人もいることでしょう。

 しかし、だからこそ「貴方が居ないとできない」業務を落とし込んで「貴方が居なくてもいい状態」を作ることは付加価値が特に高い優れた仕事と言えます。

余談:作業が悪いというわけではない

 今回は仕事の理想について語りましたが、決して作業が悪いというわけではありません。ほとんどの仕事は作業の集合体ですし、作業化された業務をこなすにはやはりそのための人員が必要になります。よって新入社員やアルバイト、パートの方々には作業を確実に行うことを期待しています。作業ではなく仕事を求められるのは将来マネジメントに携わることになる幹部候補生や現職のみです。