忘れん坊の外部記憶域

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新人にタスクの優先度を付けさせるのは酷だと思う

 仕事術の一つに「タスクの優先度付け」があります。抱えているタスクを緊急度重要度でマトリクス化し、タスクの優先度を付けるというものです。これはビジネス書の金字塔であるスティーブン・R・コヴィーの「7つの習慣」で提唱されて以降、様々なビジネス書やビジネス系サイトで紹介されている鉄板の技術です。

 もちろんタスクの優先度付けは絶対に必要です。仕事に限らず人生においても「今やるべきこと」「後で絶対にやるべきこと」「今すぐやらなくていいこと」というような分類があり、真に物事を成し遂げたいのであれば不要なものは切り捨てて今やるべき重要なタスクに注力しなければなりません。この技法を学び使いこなすことはより良く生きる上で必須だと言えます。

 とはいえ、とはいえなのですが、仕事において新人にこれをやらせるのは酷なのではないか、と思う次第です。研修会社が作成した新人向けの教育資料にこの優先度付けが載っていたのでちょっと気になりました。少しばかり異論を述べてみたいと思います。

 

仕事術にはそれを必要とする階層・立場がある

 部下の管理術はマネージャーには必須ですが下の階層ではまだ不要です。バランスシートや損益計算書を読むスキルは財務・経理や経営層には必須ですが現場作業員には不要です。つまり優れた仕事術やスキルがどのような階層・立場の人間にも適用できるわけではありません。

 タスクの優先度付けについても同様だと考えます。これは前提としてタスクマネジメントできる段階の人に必要な仕事術であって、その権限が無い新人にこれをやらせるのは無理です。

 よくあるパターンで考えてみましょう。

先輩「あ、悪いんだけどちょっとこれやっといてくれない?夕方まででいいからさ」

新人「はい、分かりました!うーん、メールの返信もしないといけないけど、先にこっちからやろう」

係長「すまん、ちょっと急ぎで人員が必要でな。今から現場へ手伝いに行ってくれないか?」

新人「え、あ、はい、分かりました。先輩から仕事を頼まれたのですがそれは」

係長「こっちのほうが優先だからこっちを優先してくれ、すぐ行かないといけないんだ」

新人「あ、はい、分かりました。では今から向かいます」

課長「お、良いところに。部長からの頼み事で今日中にこの書類を整理しないといけないんだ。手伝ってくれ」

新人「え、あ、その、係長に頼まれた仕事がありまして」

課長「じゃあそっちが終わったらすぐにこっちに取り掛かってくれ」

新人「あ、はい、分かりました」

 メールの返信が出来ず、先輩に頼まれた仕事も終わらずに怒られるという未来が見えますね。

 役職者やベテラン・中堅は「抱えているタスクに対して代用不可なキーパーソン」であることからタスクの納期を調整することが出来ます。業務フローや仕事の熟練度からその人に頼まなければタスクが進まないという状況であればそれこそ無理強いをしても通せないわけですから、納期に融通を利かせることが出来るのです。つまりタスクの優先度付けが出来るのは納期を調整できる立場であることが前提です。

 対して新人はまだ代用可能なポジションであり、立場も低く実績も無く権限も無いのですから、そう易々と他部署やお偉いさんに意見を述べることなんて出来ません。「係長の仕事を優先するんで、部長の仕事は後でいいっすか?」なんて、相当肝が据わっていて物怖じしない向こう見ずな子でなければとてもとてもそんなこと言えません。

 歳を取ると忘れてしまいがちですが、新人というのは仕事を覚えるのに必死で、頑張って上司や先輩から評価されようと考えているものです。まだ代用可能なタスクしか与えられずそれを失うことは評価を失うことと同義なのですから、「使えねえな、じゃあ別の奴に頼むわ」と理不尽に評価を下げられるかもしれないというリスクは新人にとって恐怖そのものなのです。そんなリスクを新人に取らせるのは酷い話です。

 

上司がマネジメントをすべき

 新人のタスク優先度はどうすべきか、それはもう単純な話で上司がマネジメントすべきです。新人自身にやらせるのは時期尚早です。いずれ学んでもらうにせよ、今は管理職がマネジメントすべき事柄です。新人が今どんなタスクを抱えているかを管理し、飛び込みのタスクは必ず上司を通すよう周りに調整し、どの順番でいつまでにやるかを上司が新人に指示すれば良いでしょう。

 新人にタスクの優先度を調整させるという行為は、悪い言い方ですがマネジメントの仕事を新人に丸投げして放棄しているようなものです。タスクの優先度を付けるコストは新人に払わせるべきではありません。優先度付けはマネージャーにとっては日常的で些末なコストですが、新人にとっては莫大なコストであることを忘れてはいけないのです。

 

余談

 マネジメントの常識的な話をしただけではありますが、これが分かっていないマネージャーがどれだけ世の中にいることか・・・新人がタスクで潰れるのは新人に問題がある場合よりもマネージャーがマネジメントをしていない場合が多いと感じます。

 人は歳を取ると若者の心痛が分からなくなるものです。例えば友達に嫌われることは大人にとってはとても悲しい程度ですが、子どもからすれば世界の終りのような心痛があるものです。心痛の度合いは自身ではなく相手を基準にすべきであることを肝に銘じなければいけません。

 

 先日の話。

私「何やってんの?部長に頼まれた仕事?へー、これ無駄じゃん。もっと良いデータがこっちにあるからこれを使えばいいよ。部長に言ってみなよ」

若手「そんな、部長に直言するなんて怖いです」

私「おー・・・そっか、じゃあ私が言ってくるよ」

 あぁ、確かに私も若い頃は役職持ちがおっかなかったな、と思い出しました。そういう感覚は忘れがちでホント怖いものです。長ずればパワハラになりかねないので戒めねば。