夏も近づき暑くなってきましたので、メディアやネットでは毎年恒例のエアコンに関する話題がたくさん出てきましたね。私も近しい業界でお仕事をしている技術屋・熱力学オタクとして、エアコンに関する小話をしてみましょう。
エアコン屋の回し者ではありませんよ。
エアコンとクーラー
エアコン、正式名称エア・コンディショナーは屋内の空気(エア)を調整する装置(コンディショナー)です。読んで字の如く、名は体を表すというところで、屋内の温度や湿度を調節することができます。
年配の方はエアコンではなくクーラーと呼ぶ人が多い気がします。これは冷専機が昔の主流だったからですね。業界的には冷房専用のものをクーラー、冷暖房の両方ができるものをエアコンと呼んでいます。
昔は冬場に部屋を暖めるのはヒーターが主流だったため冷房機能だけのクーラーが売れていました。現在は都市化や電化が進むにつれて暖房機能の需要が高まったことでエアコンが売れています。だから年配の方はエアコンのことをクーラーと呼ぶ人が多い、ということですね。
とはいえクーラーとエアコンは大体同じようなものです。暖房ができるかどうかの違いで、もう少し言えば湿度まで調節できるのがエアコンです。『クーラーに機能が増えたものがエアコン』、と覚えてもよいでしょう。
ちなみにエアコンをRAC,PACと呼び分ける人が居たら間違いなくその辺りの業界の人です。RACはルームエアコンの略で家庭用、PACはパッケージエアコンの略で業務用を意味します。
業者に任せましょう
RACの冷暖切り替え自体は特段新しい技術というわけでもなく、四方切換弁を使って回路を逆回しにしているだけで60年くらい前から実用化されているのですけど、まあこの辺りの歴史や技術の話は無限に語れてしまうので控えておきましょう。エアコンの作動原理である蒸気圧縮冷凍サイクルだけで数時間は余裕で語れます。実にオタクですね。
もう少し身近な話を考えてみます。
例えば・・・エアコンの修理は素人にはまず無理ですので、大人しく業者に依頼しましょう。
エアコンが壊れた時、例えば冷房中に熱風が出てきたりそもそも冷風が出てこなくなったりという時は部品がイカれてしまっていることが大体の原因です。
エアコンは内部のガス(冷媒)を循環させて熱を移動するのがお仕事ですので、普通の機械と違って部品を簡単に交換できません。何故ならば部品を取り外すと中のガスが全部抜けてしまうからです。
さらに言えばガスが隙間から抜けないように部品がガッチリと溶着されていますので、そもそも素人では部品が外せません。もっと言えばガスは高圧ガスなので迂闊に取り扱うととても危険ですし、ガスを吸ったら酸欠でぶっ倒れます。何はともあれ業者にお任せするのが一番です。
とはいえただ部品を交換するだけでも、まずポンプダウンしてガスを回収してから安全対策を取りつつ頑張って部品を取り外して、と作業工数が掛かるので、エアコンの修理はどうしてもお金が掛かります。下手に修理するよりは新しいのを買った方が経済的なことも多々・・・ああ、いえ、エアコン屋の回し者ではないです、はい。
フィルターの清掃をしてもあまり冷えなくなった程度であればガス抜けが原因の場合もあり、それはガスの補充をすれば復活しますので、その場合も業者に頼みましょう。少しお高いですけど。
悪徳業者には注意
最近はあまり見かけなくなりましたが、「家庭用エアコンや自動車のエアコンのガス(冷媒)を交換してもっと冷えるようにしませんか」「冷えるようになると電気代が節約できますよ」「環境に良い冷媒に変更してエコに貢献しませんか」と勧めてくる業者がいます。
1000%の確率で悪徳業者ですので避けましょう。修理業者が冷媒を補充するのは普通ですが、「冷媒の種類を変えましょう」という業者は確実に間違いなく悪徳業者です、断定します。
その手の悪徳業者が取り扱っている冷媒は炭化水素冷媒です。炭化水素はフロン系冷媒とは違い自然に存在するガスですので、一見エコっぽいように見えます。しかしその冷媒の実態はプロパン・イソブタン・プロピレン、つまり石油ガスです。
よってがっつり燃えます、強燃性です。そんなものに入れ替えるなんて自宅や自動車に爆弾を抱えるようなものです。あまりにも危険なため修理業者ですらそのエアコンを取り扱ってくれなくなります。
また、エアコンは冷媒に合わせて設計されているため、冷媒を変えると制御が合わずに冷えなくなります。悪徳業者が言うように電気代が下がる場合もあるかもしれませんが、それはただ単純に冷えなくなったからです。
良いことは一つもありませんので、エアコンの冷媒入れ替えはダメ、ゼッタイ、です。
せっかくですので工業会の注意喚起ページのリンクを貼っておきましょう。
おすすめのメーカー
目的や広さ、予算や欲しい機能によってどのエアコンがおすすめかというのは人それぞれです。ですのでどれが良いかはここでは述べられません。
ただ言えるのは「お金があるならダイキンを買おう」「もしくは三菱電機を買おう」「何はともあれ日本メーカーのエアコンを買おう」「でも余計な機能がいらないならグレードは落とそう、それでも充分だから」ということです。ダイキンや三菱の回し者ではありません。むしろキャラクターは日立の白くまくんが一番好きです。でも日立の回し者でもありません。
日本メーカーのエアコンは確かに高いです。高いのですが、しかし性能に満足できることも間違いありません。
白物家電が軒並み落ちぶれて自動車業界ばかりが目立つ日本ではありますが、空調に関しては今なお日本が世界トップです。エアコンで言えば家電に強い中国メーカーすら抑えてダイキンが売上高世界1位ですし、三菱や日立、東芝や富士通といった日本メーカーも世界中で健闘しています。
日本メーカーのエアコンは静かで、すぐ冷えて、何より壊れません。グリー(世界2位)やミデア(世界3位)のような中国メーカーも日本メーカーと同じ部品を使ってはいますが、基幹技術や制御、システムエンジニアリングは日本に一日の長があるのです。日本中を騒がせている昨今の品質不正問題も空調業界ではほとんど発生していません。
(一社ほどPACでやらかしてはいますが・・・ゴニョゴニョ)
エアコンはそこそこお高い家電ですので、品質重視で長く使える日本メーカーの製品がダントツでオススメです。そして私はエアコン屋の回し者ではありません。
余談
くどいようですが、これだけは最後に伝えておきたいこととして、私はエアコン屋の回し者ではありません。うーん、信憑性ないなー・・・
エアコンや冷蔵庫は私たち熱力屋の基礎教養と言っても過言ではないので、熱力学で飯を食っているエンジニアは誰でも知っています。いや、誰でもは少し過言かもしれませんけど。