忘れん坊の外部記憶域

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地球温暖化のシミュレーションに疑問を抱いてしまう

 夏になると時間の無駄だと知りつつも、地球温暖化に関するIPCCの報告書やその解説、及びそれらに反論する懐疑派の見解や、さらに再反論する肯定派の言説を読みに行ってしまいます。毎日暑いせいです。あつがなついのが悪いです。

 地球温暖化問題については政治的論争がややこしいのであまり話題にはしませんでしたが、暑さで茹った頭でちょっとばかり余計な私見を述べてみたいと思います。

 

気候変動に対する考え

 地球温暖化は大きな政治的論争のテーマですので、公平を期すため事前に私のポジションを開示します。

(環境問題を科学ではなく政治だと思っている理由)

 

 まず地球の平均気温が上がっていることには極めて肯定的です。各所での気温測定や人工衛星での測定結果から、気温が上昇傾向にあることは疑いようがないでしょう。懐疑派とされる方がよく引用されているロイ・スペンサー教授のデータでも気温の上昇傾向が見て取れます。

Latest Global Temps « Roy Spencer, PhD

 また、過去にも気温に関する記事を書いていますが、都市部に限らず日本近海の海水温も上昇していることからヒートアイランド現象とは異なる温暖化が生じていることは事実だと考えています。

(一年前頃の記事。暑い時期になると気温を語りたくなる)

 

 人為的な温室効果ガスの増加によって温暖化が起きていることについても肯定的です。懐疑派による様々な反論や異論が出ていることも承知していますが、現状において科学的なデータが存在するのは人為的な温室効果ガスのみです。

 懐疑派が科学的な議論を求めるのであれば、人為的な温室効果ガスによる温暖化を否定するのみでなくそれ以外に気温が上昇していることに説明が付く理論を提示すべきです。それがあって初めて両論併記の議論が成り立つと考えます。その点で言えばまだ論拠が薄いとはいえスベンスマルク効果や雪の日傘効果による理論を構築している学者は科学的だと感じます。

 ただ、肯定派の態度もあまり望ましいとは思っていません。肯定派による科学的に適切な反論も無数にありますが、一部では「科学的に決着済みで異論を差し挟む余地は無い」と反論をシャットアウトしてしまっており、それはまったくもって科学的な態度ではありません。「懐疑派は石油業界から資金提供を受けている」「専門家以外は口を出すな」「権威ある団体に従え」というような論調は決して科学とは言えないでしょう。肯定派も懐疑派も、科学の土台で議論を進めて欲しいです。

 

 民主的な社会においては、主流派に対する反論を封じるのではなくむしろ公に晒してしまったほうが良いと考えています。両論を並べて民衆に問えばいいのです。下手に押さえつけるから「政府や国家の陰謀によって我々の意見が封殺されている!」と陰謀論に走ってしまうのであり、どちらも並べて民衆に問う方がよいです。

 「民衆に理解できるはずがない、我々専門家の言うことが正しい」という態度は若干危険です。それは民主主義的とは言えず、「原子力発電所は科学的に安全だから住人の反発意見を聞く必要は無い」というような科学者と同じ轍を踏みかねません。地球温暖化問題への対応はトランス・サイエンス問題であり、社会がどこまで許容できるかを議論するためにも専門家以外の参画は不可欠だと考えます。

 ワインバーグはこのトランス・サイエンス問題に対する一つの解決方法として、専門家だけで意思決定をするのではなく社会全体で民主的に意思決定を行うべきだということを述べています。科学者は分かりやすく研究成果を報告し、人々は科学的知見を学び、分かっている範囲の科学的知見から導き出される社会的・経済的・倫理的・道徳的影響をその社会の構成員が許容できるかを双方向で協議する必要があるということです。

 リスクが有るかもしれないが便利なので許容する、又はリスクは無いかも知れないが許容しない、ということを専門家だけで決めないで民主的に決めることが望ましいとされているのが現代の科学です。昨今ではそのための方法としてリスクコミュニケーションやレギュラトリー・サイエンスといった考え方の発展、アウトリーチ活動や科学技術教育の推進といったことが進められています。

 

シミュレーション結果には疑問符有り

 以上のように、基本は肯定派寄りでありつつも、そもそもの議論の土台があまり望ましい状況ではないと考えています。

 ただ1点、唯一納得していないのが気候シミュレーションの妥当性についてです。過去のデータによる物理学的な将来の予測(雨量の変化や異常気象の増加)は信用しているのですが、シミュレーションによる未来予測に関しては不確実性が高いと考えています。

 

 モデルの検証がされていないことやチューニングの問題は取り上げません。それには双方の言い分がありますし、そもそも一般人が検証できる範囲ではありません。

 個人的に気になっているのはシミュレーションの妥当性を示すために用いられる下図です。

 

引用元:気象庁 Japan Meteorological Agency

 

 IPCCの報告書で提示されているこの図は、自然起源の要因のみでは現在の温暖化を説明することが出来ず、人為的な影響の可能性が高いことを示しています。

 

 ただ、シミュレーションでは観測値とある程度一致した結果を良いシミュレーション結果だと判定しているはずです。まったく観測値と合わないシミュレーション結果は当然ながら誤りとして廃棄されているでしょう。

 そのシミュレーション結果から人為起源の要因を抜いたら観測値とズレるのは当たり前な気がします。

 この差が正しいことを証明するためには[人為+自然]が観測値と一致していることだけでは不足で、温室効果ガスが増加する以前の気温を[自然]単独のシミュレーション結果で再現できる必要があるはずです。それによって初めて「シミュレーションは[自然]単独の気温を再現できており、自然起源だけでは近年の温暖化傾向を説明できない」と断定できます。

 ところがグラフをよく見てみると、[人為+自然]と[自然]単独が乖離しだすのは1910年以降となるのですが、それ以前の観測値と[自然]単独のシミュレーション結果が一致しているとはとても見えないのです。これでは、「このシミュレーションでは自然起源の気温を適切にシミュレートできておらず、自然起源の温室効果ガスが気温にどの程度寄与しているかは不明」という判定になりかねません。

 

結言

 観測値が気温上昇傾向を示している以上地球温暖化への懐疑は特に無いのですが、シミュレーションはどの程度信頼していいものかと疑問を抱いてしまいます。

 私の立ち位置は、「実測値や理論は信用するがシミュレーションだけはちょっと・・・」という、肯定派なのか懐疑派なのかよく分からないところです。

 まあ、なんにせよ気温が上昇傾向にあることは事実であり、夏は暑いです。