マメ科クズ属のつる植物である葛の繁茂を防ぐ際は、つるを引っこ抜いたり切ったりしても意味が無いことは常識です。
・・・おそらく常識だと思います。
常識ではないかもしれません。
葛は痩せた土地でも凄まじい速度で成長する植物であり、表面的なつるを取り除いただけではすぐに再生してしまいます。除去するには徹底的に除草剤を撒いて根まで枯らさなければなりません。文字通り根絶やしにしなければならないのです。
【余談】
どうでもいい話ですが、Wikipediaの「アメリカ合衆国におけるクズ」というページはちょっとクズ(屑)と誤認しそうで笑えます。カタカナよりも漢字のほうがいいんじゃなかろうか。
アメリカ合衆国の連邦政府が認定する侵略的外来種(Invasive species)がWikipediaにまとめられていますが、葛(Kudzu)は一覧表のトップにいます。暖かい地域では冬になってもつるが枯れないため、一年中成長し続けて大変だそうです。
◆Invasive species in the United States - Wikipedia
問題解決力
なぜ唐突に葛の話をしたかというと、問題解決力における「問題定義」の仕方について、ある意味で良い例だと思うからです。
問題解決力は社会人やビジネスパーソンに必須のスキルとされています。細かい話はビジネス書なりビジネスサイトなりを見ていただくとして、問題解決力を大雑把に分割するとその中身は「問題をどう定義するか」と「問題をどう解決するか」の2点で構成されます。
特に重要なのは「問題をどう定義するか」です。どう解決するかは状況に応じて使い勝手の良いツールなり手法なりを使いこなせばよく、それは訓練によって身に付けることができます。反面、問題をどう定義するかは僅かばかりのセンスが不可欠です。センスの有無によって、パッと勘所を掴んで本質的な問題を見抜ける人もいれば、なかなか問題を定義できない人もいます。
特に問題定義の初歩である「明確に見えている問題」であっても上手く問題定義をできない人はいるものです。
これは何故かと言えば、冒頭で述べた葛の対処と同じことが起きていることが原因です。
事象≠問題
明確に見えている問題というものは、実は存在しません。
明確に見えているのは事象に過ぎないからです。
事象と問題はイコールではありません。
葛の例で説明していきます。
<葛のつるが繁茂している>
これは起きている事象で、明確に見えているものです。
これをそのまま転用して
「葛のつるが繁茂していることが問題だ」
と捉えてしまうと、つるをとにかく除去すればいいという短絡的な問題解決にひた走ってしまう愚を犯すことになります。
ただ葛のつるがそこに存在するだけでは、それはただの事象であり問題ではありません。実際の問題は葛によって<日中の日照が遮られて困っている>ことであったり、<木々の生育に支障をきたしている>ことのはずです。
このように、明確に起こっている事象をそのまま問題として直接採用するのではなく、
「そもそもこの管理域に葛が存在していることが問題だ」
と定義することができれば、
「ならば対策は葛を根絶やしにすることだ」
となって適切な問題解決を執り行うことができます。
結言
ビジネスに限らず世の中の問題でも同様に事象=問題という錯誤に陥っている事例があまた見受けられます。「こういうことが起きている」「それは問題だ」という論理展開です。
しかし実際はその起きている事象によってどんな問題が起きているかを深堀りし、なぜこういうことが起きているかの根っこを捕捉し、そこに対策を打つ必要があります。そうしなければ、葛のつるを引っこ抜くような事態となり、延々と続く不毛な議論と無意味な対策のもぐら叩きに陥りかねません。