忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

空調冷熱業界と関連ニュースに関する雑感

ニュースを見ていて思い出した小話

富士通ゼネラル、エアコン国内生産の再開検討 01年以来: 日本経済新聞

 空調機器で有名な富士通ゼネラルですが、中国拠点は「富士通将軍」という名称です。勇ましくて結構好きだったりします。(Generalは日本語で全般的、一般的、一般向けという意味の他に、将軍という意味もある)

 ただの小話です、はい。ニュースを見ていて思い出しただけです。

 とはいえせっかくですので、空調機器関連について何か話を続けてみましょう。

 

空調屋の未来は明るい(良いか悪いかはさておき)

 昨今、日本の製造業は少し寂しい話題が多いですが、その中でも元気な業界の一つが空調冷熱業界です。世界での売上第1位のダイキン工業を筆頭に、日本メーカーのエアコンやチラーなど空調冷熱分野での製品が世界中で売れています。

 この分野はHVAC&R(ヒーバック&アール)とも呼ばれています。

  • H:Heating・・・暖房
  • V:Ventilation・・・換気
  • AC:Air Conditioning・・・空調
  • R:Refrigeration:冷凍

の頭文字を並べたものです。

 日本のメーカーは昔からこの分野で強みを持っています。もちろんそれぞれの企業努力や販売戦略、そして何よりも働いている人々の尽力によるものであることは論を俟ちませんが、日本の自然環境も一つの理由として考えられるかもしれません。

 年間を通して高湿度で寒暖差の変化が激しい過酷な日本の自然環境によって磨かれてきた制御技術と耐久性、資源が無くエネルギー効率を高めなければならない制約によって磨かれてきたヒートポンプ技術、そういった日本ならではの強みを持つ製品がエネルギー価格の上昇や気候変動によって寒暖差が苛烈化しつつある世界の状況に適合していると考えられます。

 

 単純な販売台数や売上で言えば中国・アメリカのメーカーも多いのですが、それはどちらかというと自国内での販売がほとんどです。日本に居てミデアやグリー、トレーンやキャリアのエアコンはほとんど見かけないと思います。

 この分野は他の家電や工業製品と違って各国毎の特色ある環境に合わせた制御をしなければならないため、スーパーマーケットや土建業のように一国内や一定領域内で住み分けが起こるのが普通です。インドネシアで売れるエアコンをカナダに持っていってもまず売れません。

 日本の空調メーカーは技術力によってその壁を越えて世界中で販売できている点が強みです。今後、世界中で気候変動が苛烈化していった場合、日本のHVAC&Rメーカーはさらに明るい未来を描けることになるでしょう。

 それが良いことかは、まあ、なんとも断言しにくいものではありますが・・・

 

そんな空調業界に水を差すニュース

仕様を無断変更か、日本電産が抱える新たな問題 | IT・電機・半導体・部品 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

問題が発覚したのは、今年6月。テクノモータ社の中国法人である日本電産芝浦(浙江)有限公司で、空調機器用のファンモーターの「巻線」と呼ばれる部品の素材に、顧客に仕様書で示したポリウレタン銅線ではなく、アルミ線を銅でコーティングした銅クラッドアルミ線に変更しているとの内部告発があったのだ。

納入先はダイキン工業や三菱電機、日立ジョンソンコントロールズ空調など4社で、無断で行われていたという。

 いやふざけんなって!サイレントチェンジとかやめろよ!つーかモーター巻線の材質サイレントチェンジなんて可能か?導電率変わるだろ?それで仕様を満たしているというのはむしろ逆に凄い技術力では?ホントに仕様を満たせてるのか?

 

 ああ、ええと、混乱して素になっていました。ちゃんと話をしましょう。

 まず、上の記事は東洋経済新報社の技術系記事なので、申し訳ないですが飛ばし記事の可能性があります。東洋経済さんは度々やらかしているのでちょっと信頼度が低いです。

 ただ、最近の東洋経済新報社と日本電産は訴訟に至るほどにバチバチやり合っているので、むしろ逆に信憑性が少し高い情報でもあります。

 ですので鵜呑みにはしないとして、しかしこれが事実だとしたら驚きの話です。

 

 モーターという電化製品の心臓部に等しい部品のさらに根幹部品である巻線を顧客申請無しに勝手に材質変更するなんて、普通はあり得ないです。まず考えられないです。変更点が原因で異常や不良が出ようものなら出荷した全ての製品の回収なりリコールなりに発展するため、部品メーカーが潰れる勢いでの損害賠償が発生します。

 近年の事例で言えばデンソーの燃料ポンプやタカタのエアバッグが記憶に新しいでしょう。デンソーは大きな損失を被りましたし、タカタは潰れました。

 よって普通の部品メーカーであれば組立メーカーにお伺いを立てて、組立メーカーも散々評価試験を実施して、本当に問題が無いことが判明してから材質を変更します。ファンモーターの巻線なんてそれこそ数年経たないと異常が見つからないはずです。もし異常が起きてしまって数年間出荷され続けた製品全てのリコールなんてことになったら・・・ああ、想像するだけでも恐ろしい。

 

 勝手に材質を変更することをサイレントチェンジと言います。過去に部品メーカーが勝手に材質が変更したことによって燃焼火災という大きな事故が起きたことがあり、現代のメーカーはこのサイレントチェンジをまず許しません私も設計屋の一人として絶対に許しません。サプライヤーが勝手に材質を変更してたら、それはもう品質保証系のお偉い幹部を引き連れてサプライヤーにカチコミ待った無しです。

 そもそも図面というのは契約書です。サイレントチェンジは明確な契約違反であり、たとえどれだけ性能に変更が無いとしても商取引上許されることではありません。

 そんな製造業の事情を知りつつサイレントチェンジをするなんてあり得るのか疑問に思うばかりです。なんとも、好調な空調業界に水を差す驚きのニュースでした。

 

結言

 本題としてサイレントチェンジという製造業の魔物について詳しく説明をしたかったのですが、話が長くなってしまったのでまた後日、別に記事を作成したいと思います。

 

 

余談

 一応HVAC&R関連が私の専門分野です。私は熱力屋さんなのです。よくこの辺りの技術的な話をしたり気候変動について言及するのは、それが私のお仕事に直接関わっている内容だからですね。技術オタクなので専門の話をさせると長くなること長くなること。ちゃんと区切りを付けたいと思います。