忘れん坊の外部記憶域

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ペイウォールの向こう:情報を加工する手間の外注

 ゆきにー (id:yuki_2021)さんがペイウォールについて語っていた記事を読んで思うところがあったので、ペイウォールと情報に関する個人的な考えを整理していきます。

 

ペイウォールに関して

 ペイウォール(Paywall)は読んで字の如く『お金を払わないと通れない壁』、つまりコンテンツへのアクセスを制限するために購入や有料サブスクを必要とする方法です。有料のwebニュースやお金を払わないとアクセスできない学術論文などが典型的な例でしょう。

 一般にペイウォールの向こうには無料の情報よりも高品質な情報が置かれています。これは構造的に自然なことで、無料で手に入る情報には誰もお金を出しませんし、お金を払って得た情報が低品質であればユーザーはすぐに購入を止めてしまうからです。

 (酷い低価値の情報を売っている詐欺師もたまに居ます)

 

 公共性や平等性を理由にペイウォールを否定する声もありますが、まあ情報を売って商売している人がタダで情報を手に入れているわけでもなく、そもそも組織やシステムの運営費用も掛かるわけで、ペイウォールを設置するサービスがあるのは当たり前な気はします。

 

情報の種類

 ここまで情報と言ってきましたが、そもそも情報とは何かの定義が必要です。

 今回は有名なフレームワークであるDIKWピラミッドを援用します。

 ■データ(Data):

  数字や文字など、生の、または整理されていない形式の事実の集まり

 ■情報(Information):

  特定の目的のために測定、視覚化、分析しやすいように処理されたデータ

 ■知識(Knowledge/Intelligence):

  情報として明示されていない関係性、情報をどのように適用するかの理解

 ■知恵(Wisdom):

  知識を行動的に応用したもの

https://www.ontotext.com/knowledgehub/fundamentals/dikw-pyramid/

 

 例えば遠出をしている時に渋滞にはまりそうだとして、カーナビに表示されているのは測定された『データ』に基づいた『情報』です。なぜ渋滞していてどのくらい時間を取られるかを推察するのが『知識』で、その知識を用いて下道に下りるなりの回避ルートを取るのが『知恵』です。

 

ペイウォールの向こうにあるものと、その是非

 DIKWピラミッドの分類で考えると、ペイウォールの向こうにあるものは多くの場合で『知識』です。

 大抵の『データ』や『情報』は様々な機関や団体によって無料で公開されており、それを有識者が理解しやすい形に加工して解説や分析を付け加えて『知識』へと昇華させたものがペイウォールの向こうに置かれています。有料のwebニュースはその顕著な例でしょう。

 もちろん『データ』そのものがペイウォールで囲われているパターンもありますが、『データ』を買うのは大多数の一般人ではなく少数の専門家や分析屋ですのであまり主流ではありません。

 

 つまるところ、私たちは『情報』を買っているのではなく『知識』を買っているのであり、お金を払って情報を加工する手間を省いているのだと考えます。言い換えれば情報処理の外注です。

 ペイウォールを外注とするならば、無料の雑多で玉石混交の『情報』を取捨選択して分析し『知識』や『知恵』に昇華する能力と時間があるのであれば、必ずしもペイウォールの向こうに行く必要はないとも言えます。

 

 とはいえ無料で手に入る『情報』はそのままでは役に立たないうえ、膨大な『情報』を分析するのは手間ですし、様々な事柄に精通して『知識』に昇華できる能力を身に付けるには時間と努力が必要です。

 また、『知識』の差異は様々な事柄に伝搬して格差を生みます。大抵の物事は知らないよりも知っているほうが得であり、人生をより良くするためには多くの『知識』が不可欠です。

 よって専門家が加工した『知識』をお金で購入することは合理的かつ適切な行為だと考えます。

 

結言

 『知識』を買う行為は有益です。自らの財布と相談してペイウォールの向こうへと行きましょう。

 ただし『知識』は持っているだけではなくそれを実用的に活用する『知恵』へと昇華させなければあまり意味がないため、購入する『知識』は選ばなければいけません。

 しかしそれを選別するには『知恵』が必要です。そして『知恵』を得るには『知識』が不可欠です。

 鶏が先か卵が先か、なんとも悩ましい話です。

 

 

余談

 都市伝説的な話ですが、「CIAの仕事の大半は雑誌や新聞・テレビなど巷にあふれるメディア情報の収集と分析であり、世に出ているそうした情報の裏を読み解くこと」とまことしやかに言われています。

 準軍事部門を持っているような組織の仕事の大半がそんなことのわけはないのですが、とはいえ情報スクリーニングはヒューミントの基本であり、CIA(Central Intelligence Agency)の名が示す通り、彼らは巷にあふれる『情報』から『知識』を抽出する『知恵』を持っていることには間違いないでしょう。