忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

そういえばエンジニアとはあまり名乗らないなと思う機械技術屋の独り言

 先日話題になっていたまとめサイトの記事を読んでの感想。

エンジニア飲み会を開催したら意表を突かれた参加者が集まった「世の中いろんな技術者がいるんだな」 - Togetter

 

曲がりなりにも、エンジニアです

 私は工学部を卒業してメーカーで機械設計をしている人間です。

 

 一般社団法人八大学工学系連合会なる厳めしい名前の団体によれば、工学(Engineering)とは「数学と自然科学を基礎とし、ときには人文社会科学の知見を用いて、公共の安全、健康、福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問」と定義されています。

 私も一応は自然科学に該当する機械力学・材料力学・熱力学・流体力学からなる四力の知見を提供することでおぜぜを頂戴していますし、毎日CADを使ってお絵かきしたり強度やらエネルギーやらの算数をしたり、試作品を作ったら評価試験なんかしちゃったりしていますので、僭越ながらエンジニアと名乗っても石を投げられずには済むかなと思っています。

 

 とはいえ、あまり自分のことをエンジニアとは名乗らないです。気分でエンジニアを名乗ってみる時もありますが、ブログでは「エンジニア」よりも「技術屋」「設計屋」と名乗ることが多いですし、この記事のカテゴリも「技術屋の目線」です。対外的に日本語で自己紹介する時も「技術担当」や「設計担当」、「技術者」です。

 堂々と名乗るのは英語で自己紹介する時くらいだと思います。Design EngineerもしくはMechanical Engineerと名乗っています。

 

 なぜ私がエンジニアをあまり名乗らないのか、唐突に自己分析してみましょう。

 

エンジニアを名乗らない理由

 まず、「エンジニア」は多義的で人によって捉え方が違うので、扱いが難しいと思っているためです。

 エンジニアを「工学を扱う人」としても、そもそも工学は幅広い分野を取り扱っています。大分類だけでも建設・機械・電気・都市・資源・生物・化学・情報など10種類以上、細分化された工学は100ではとても収まりません。

 なので「エンジニア」だけだとなんのエンジニアなのか分からないです。せめて「○○エンジニア」と頭に工学分野を付けないとさっぱり。

 

 次に、私のいる機械系の業界は平均年齢が高いせいです。

 横文字の外来語なんてハイソでオシャレな言葉は通じません。

 

 最後に、ネット上で「エンジニア」と言えばITエンジニアが主流だからです。「エンジニア」と迂闊に名乗るとIT系と誤解されかねないため名乗っていません。

 「エンジニア」でweb検索すれば、職業紹介サイトも、就職転職サイトも、コミュニティサイトもほとんどITエンジニアの話だけです。「エンジニアのための情報共有コミュニティ」として有名なQiitaやzennだって、実際に取り扱っているのはエンジニア全般ではなくITエンジニアだけです。

Qiitaでは、以下の定義に当てはまる人は全て「エンジニア」と呼ぶことにします

・プログラミングの知識と経験を活用している人

コミュニティガイドライン | Qiita ヘルプ

 この定義で言えば私は「エンジニア」ではないなと思うので、エンジニアを名乗っていないです。

 

 後は、機械系は古臭く渋い業界ですので、技術者/技術屋と名乗ったほうが貫禄が出るからかもしれません。

 

なぜネットではエンジニア≒ITエンジニアなのかの考察

 最後に余計な考察。

 なぜネットではエンジニア≒ITエンジニアなのか。

 

 まずは何よりも世間の需要でしょう。情報技術の発展に伴ってITエンジニアの需要は伸びる一方ですので、リクルーター、エージェント、就職希望者といった人がITエンジニアについて調査・発信していることが理由だと思います。

 後はITエンジニアが情報をネットでたくさん発信しているのも理由として挙げられそうです。ネットに強いエンジニアランキングがあればIT系が当然トップでしょう。他の工学分野はあまりネットで情報発信をしていません。

 なぜ発信しないかと言えば、発信することが無いからです。

 恐らく機械系に顕著ですが、IT以外の工学分野では最初に学ぶことが膨大にある代わりに知識の陳腐化がとても遅いのです。もちろん新しい材料や加工技術など技術の進歩を学び続ける必要はありますが、それらも全て今までの知識と地続きであり、ベース部分を理解していれば習得は容易です。機械屋は四力を習得していれば一生食うのに困りません。求められるのは新しい知識を得る能力よりも膨大な既存知識の網羅性と応用力、そして問題解決力です。

 言い方を変えれば、情報共有がすでに終わっているとも言えます。基礎部分は全部専門書に書いてあります。大体のことは何を聞かれても「その分野の専門書を読め」で終わりです。

 そして応用部分はノウハウなので非開示か、特許や実用新案で取り扱います。最先端は学術論文等で取り扱う領域です。

 よって悲しきかな、ネット上で発信することがありません。

 何よりも、もしネット上で発信したとしても、工学という細分化された学問の都合上、その情報が刺さる人は極一部です。つまり発信する行為自体の価値が低くなっています。

 

 考えてみると、人数の規模があり、知識の更新が高頻度で、情報の共有と発信に価値がある、そういった特徴を持っているのはIT系だけなのかもしれません。

 

 

余談

 入口の敷居は少し低いぶん学び続けなければ辛いIT系と、とりあえず大学で最低4年は学んでからじゃないとお断りな参入障壁の高い他の工学分野。長い目で見てどちらが楽かと言えば後者な気がする機械屋の戯言でした。どうせ4年程度で学べる知識なんてほぼ無に等しく、エンジニアという職業自体が学び続けることを要求される仕事なのでどっちもどっちかもしれませんが。