忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

技術屋として生きていくためには勉強が必須だと思っているが

 いつものようにネットの情報を漁っていたところ、次のようなニュアンスのコメントを見かけました。

自主的に勉強しなくたってエンジニアを続けていくことはできる

 前後の流れから、このエンジニアはITエンジニアを指しています。

 これは機械の技術屋からするとなんとなく得心がいかない意見です。

 

 今回は専門職の自主的な勉強に関する戯言を述べていきます。

 

椅子取りゲーム

 まず前提として、社会人が自主的に勉強すべきどうかは契約に依存するものだと私は考えています。

 時間を基準に契約をしているのであれば勉強は必須ではありませんし、能力を基準に契約をしているのであれば能力を維持向上するために勉強が必要になります。成果物を基準に契約しているのであれば勉強は必須でしょう。

 上述のうち技術屋は「能率的な職務遂行」を求められる能力基準か成果物基準で契約することが多いため、自主的な学びはある程度の範囲で否応なしに必要なものだと考えます。

 

 一例に過ぎませんが、機械設計を主とする私の職場では、勉強しない人は数年で別の部署に異動していきます

 もちろん機械設計の仕事は1,2年程度で学び切れるものではありませんので、その時点での設計技術の高低で判断されるわけではありません。そのため厳密に言えば勉強の有無ではなく成長の有無によって識別されます。数年勤めても仕事の幅が広がらない人、設計技術が身に付いていかない人は適性が無いと判断されて異動です。

 よって自主的に猛勉強していても成長が見られなければ認められませんし、背景知識をすでに完備していて勤務時間内に学んだ知識だけで充分に成長できる人は残留が可能です。これからさらに何年も掛けて設計技術を身に付け続けることができるか、つまり成長できるかどうかが判別基準となります。

 もちろん他者と比して圧倒的に優秀で勉強をしなくても卓越した専門性を維持できるのであれば勉強は不要でしょうが、能力は相対的なものであり、専門職は椅子取りゲームです。周囲が勤勉な勉強家である場合はいずれ成長している人に追い抜かれてしまいます。

 

 少なくとも私の職場では、10年以上設計部署で勤めている技術者は皆真面目で勤勉な勉強家ばかりです。そうでない人は別の部署に異動済みです。

 

業界によって違う?

 冒頭の話に戻り、「自主的に勉強しなくたってエンジニアを続けていくことはできる」についてですが、私からするとこれはかなり極論に思えます。

 それはまあ、趣味的で個人的なエンジニアとして続けていくことは可能でしょうが、仕事としてエンジニアを続けるのであれば能力向上のための勉強が不可欠だと思っている機械設計屋としては、これは業界の違いなのかそうではないのかが気になるところです。

 

 推論として、社会が求めている質の許容度、そして参入障壁と人材流動性の違いの2点から考察してみます。

 機械・電気・建築のような業界では商品に対して社会の求めている質が高く、まともに動かない装置や人が住めない建物は当然ながら売れないので商売になりません。競合と比較して相対的に高い付加価値を商品に与えなければ市場競争で生き残ることはできず、そのような高付加価値商品を設計するためにも人材の質は高い必要があります。

 よってこれらのような分野の専門職には理工学部や専門学校で学んできた人しか基本的に採用しません。そして学校で何年も学んできた基礎が実務ですぐに役立つわけではないため、採用後に何年も掛けて実際の設計を学んでいきます。そのため参入障壁は高く、人材流動性は低い業界です。必要なのはスキルを持っている人材ではなく、スキルを身に付ける能力を持っている人材です。

 

 IT系はその他の工学分野と異なり社会的な質の許容度が低いと言えそうです。徐々に成熟しつつあるとはいえ現状はIT技術の需要に対して供給できる技術者が不足しており、一部のIT商品は質よりも量を求められています。

 そのため、IT系は量の不足を補うために「未経験者OK」が一部で許容されている業界だと言えます。もちろん本当にずぶの素人を求めているわけではないでしょうが、少なくとも機械や電気は募集要項に「未経験者OK」を入れることはまずありませんので、求めている人材像は明らかに異なります。

 つまりIT系は商品に求められている質の幅が広いために未経験者でも可能なくらいに参入障壁の低い部分が残っている業界であり、そのために人材流動性は高く、スキルを身に付ける能力よりも今現在保有しているスキルセットの中身が問われるのだと考えられます。

 そのような環境ではスキルを身に付ける能力は評価の対象になりません。組織に所属してスキルを身に付けていくのではなく、持っているスキルに合わせて所属する組織を変えることが一般的となりますし、環境を変えるつもりが無ければその組織に定住すればいいので自主的に勉強をしてスキルセットを更新する必要もありません。

 

結言

 以上の推論より、需要と供給のバランスからくる社会的な許容度とそこから生まれる高い人材流動性と低い参入障壁のため、現状では勉強しなくともITエンジニアとして働くことができる環境があると考えられます。

 そう考えると「自主的に勉強しなくたってエンジニアを続けていくことはできる」は決して偽ではないのでしょう。

 ただ、将来的に量の供給が落ち着いて他の工学業界と同様に質を求められるようになった時、スキルが無いと困るかもしれません。そのため、IT系の若い人は勉強して能力を高めておいたほうがいいとは思います。