「分数の割り算なんて社会に出てから使わないよ」なんて言葉を時々耳にします。それはある面で正しく、使えば便利なことはありますが別に使わなくても日常生活を送ることはできます。
とはいえ、日常生活で使う・使わない、或いは使える・使えないはさておき、分数の割り算を諦めることは分数の割り算を使う生き方は選択できなくなることを意味します。例えば設計職や開発職は選べません。なにせ毎日のように分数の割り算をするため、できなければ仕事にならないです。
もちろん人生は人それぞれ歩みたいように歩んでいけばいいわけで、分数の割り算を使わない人生だってまったくもって悪いことではありません。数学の関わらないアートな世界で生きるも良し、スポーツ選手になるも良し、美容師になるも良しです。
ただ、若いうちに人生の選択肢を狭めてしまうのはなんとなく勿体ないのではないかと、個人的には思います。
世界の多くは割合で記述されている
理工学の世界では分数が必須です。分数の割り算ができないとまともに単位を扱うことができません。
単位とは量を数値で表すための基準となる一定量のことです。
有名どころで言えばグラムやメートル、秒やアンペアなどが基本単位です。「1mとはこの長さですよ」と皆で決めた基準に基づいて、2mは1mが2個分の長さ、0.5mは1mが0.5個分の長さ、と量を数値で表せるようになっています。
基本単位以外で量を計る時は組立単位などを用います。組立単位とは基本単位を組み合わせたもので、例えば速度は組立単位です。「時速何キロ」は時間と長さ(距離)を組み合わせたkm/hで表されます。
具体的に言えば、速度とは単位時間当たりの距離です。先ほど述べたように単位とは量を数値で表すための基準となる一定量のことであり、単位時間とは時間を一つの単位と見なすことを意味します。時間を基準として長さ(距離)の量を数値で数えられるようにしているわけです。
そして、見て分かるようにkm/hは分数です。
速度に限らず、物事の量を示す場合は何らかの別の単位を基準に置いた割合で表すことが多く、そのために単位は分数で表されることが多くなります。密度も、エントロピーも、仕事率も分数です。
世の中のほとんどは分数で記述されていると言っても過言では・・・多少過言ですが、そこそこに事実かもしれません。
単位を扱う時は分数の掛け算割り算が必須
単位を操作する際は大抵の場合で分数の掛け算・割り算を行う必要があります。
例えば常温の銀10kgの体積を求める場合、銀の密度は10490kg/cm3ですので、体積は95.3cm3です。キッチンで使う計量カップくらいの大きさですね。これは質量を密度で割っていて、[kg]÷[kg/cm3]=[cm3]と計算しています。密度で割る演算は分数の割り算です。
他にも、特定のトラベルにおいて圧力差Δpが1barのときバルブを流れる5~40℃の温度の水の流量Qをm3hで表す数値であるところのKv値はKv=Q√(ρ/Δp)で計算することができますが、このKv値の単位は簡単な次元解析をすれば分かるように[L3T-1]*√([ML-3]/[T-2L-1M])=[L2]ですので、m2、つまり面積です。
慣性力と粘性力の比と定義されるレイノルズ数 Re=ρv2L/μvは単位を計算すれば[kg/m 3][m2/s2]/(([kg/(m・s)][m/s])/[m])=[kg/s2]/[kg/s2]と無次元量であることが分かります。
例示がどうにもマニアックなものが多くなりましたが、何はともあれこのように単位の操作や次元解析では分数の掛け算割り算が頻出します。
物体の様々な状態を数式で表す運動方程式や状態方程式はほぼ全てに分数が入っているように、世界を数字で表現する際には分数から逃れることはできません。
結言
分数の割り算を使う大人はたくさんいますが、別に使わない大人もたくさんいます。できる人はどちらの道も選べますが、できない人は使わない道しか選べません。
そのため、使うにせよ使わないにせよできたほうがお得ではないかと、分数を毎日使っている私は思います。