忘れん坊の外部記憶域

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組織エラーはセクショナリズムの隙間から生じる

 不定期に上司と揉めるテーマがあります。

 それは組織のセクショナリズムに対する考え方です。

 私としては組織の過剰な縦割りやタコ壺化を避けることを望んでいますが、上司は自部署のタスクをこなすことを優先的に考えています。

 

 立場によって求められる職掌がある以上、どちらかが絶対的に正しいというわけではなく、どちらの言い分にも理があることではあります。

 ただ、今回は私の言い分を主軸に、意見を解説していきます。

 

エラーは隙間で生じる

 エラーには個人が起こすものと組織が起こすものがあります。

 前者はヒューマンエラーで、後者は組織事故です。

 組織事故、すなわち組織要因によるエラーの多くは組織の隙間で生じます。各部門や各部署がそれぞれの主とする業務でエラーを起こすことは少なく、大抵の場合は部門間や部署間を跨いで行われる業務においてです。

 

 これは野球で言うところの「お見合い」が近い現象です。

 野球の「お見合い」とは打ちあがったボールに対して野手同士が捕球を譲り合い、結果的に落球してしまうことを意味します。言うなれば守備の隙間です。プロ野球では滅多に見かけませんが少年野球や素人の野球ではよく起こります。

 組織事故も同様に、部門部署を跨いで進行する業務においてその業務をこなす責任部署が曖昧な場合、すなわち組織の隙間でよく生じます。

 

なぜ隙間が生じるか

 セクショナリズムとは組織内の各部署が互いに協力し合わず、自分たちの部署の権限や利益を優先する現象を言います。部署(セクション)に囚われて排他的な傾向を示すことであり、縄張り主義やタコ壺化、派閥主義や部局割拠主義が類語です。

 

 通常の組織ではセクショナリズムとそれによる隙間が必然的に生じます。その理屈を説明してみましょう。

 『社会科学的な意味での組織』の盛衰は『生物学的な意味での組織』と同じような盛衰を見せます。

【立ち上げ期】

 生まれたての組織、出来立ての組織は未分化で、内部の専門性が明確になっていません。中にいる誰もが全ての仕事に対応します。

 

【発展期】

 規模が大きくなると細胞が分裂し、それぞれで仕事が分業されるようになります。ただし重複した領域はそれぞれが自分たちの仕事として協力して対応します。まだ立ち上げ期のメンバーが前線に残っているため、専門性が高まったとはいえ誰もが他者の仕事に対応可能です。

 

【成熟期】

 時間経過に伴い組織の構造は固まり、業務は専門毎に明確な分業化がなされます。

 

【衰退期】

 さらに時間が経過すると人員が入れ替わり、重複領域の仕事を分かる人が前線から居なくなります。新しい人員は分業化された業務しか知らないため、重複領域の仕事では部署間での押し付け合いが発生し、隙間となって業務の円滑な進行を阻害するようになります。

 

 生物学的な組織の老化と同様に、社会科学的な組織も老化によってセクショナリズムと隙間が生じます。これは必然的なものであり、大企業病の一種です。大企業にお勤めの方であればこのようなセクショナリズムと隙間は実感的に感じていらっしゃるかと思います。

 この隙間は意図的に塞がなければ必ず拡大していきます。

 

「お見合い」を避ける方法

 以上より、仕事で押し付け合いやエラー、すなわち「お見合い」が生じるのは時間経過による人員の入れ替わり過度な分業化によるセクショナリズムが原因です。

 このような「お見合い」によるエラー、組織事故を避けるには2つの方法があります。

 それは率先して引き受ける積極性と、活発なコミュニケーションです。

 過度な分業化によるセクショナリズムを避けるにはそれぞれの構成員が自部署以外の業務を把握する必要があります。場合によっては職掌や分掌を越えたアクションも許容しなければなりません。

 そのためには時に厳密な分業を否定することが必要です。それは非効率的なことはありますが、しかし隙間によるエラーを避けるためには必要な投資だと言えます。

 これに対して「それはお前の仕事ではない」「それは私たちの仕事だ」と考えて組織内の摩擦を避けようとすることこそが危険です摩擦を避けようと距離を取れば、それだけ組織の隙間は広がっていきます。隙間を無くすためにはコンフリクト(軋轢)を恐れない積極的な姿勢が欠かせません。

 

 また、コミュニケーションも重要です。互いに声を掛け合ってどちらが捕球するかを明確にすれば「お見合い」を避けることができます。

 これは組織の隙間も同様で、それぞれが積極的に隙間を埋めるために動き、しかし実際にその仕事をキャッチするのは誰にするかは声を掛け合って決める。それぞれが互いに恐れず活発な行動を取ることが「お見合い」を避けるには必須です。

 

結言

 最後に実例を述べましょう。

 先日も4部署の連携により見事な「お見合い」が生じたために上司と少し揉めました。

 私としては組織内政治やセクショナリズムに関係なく顧客の要求を満足することが組織として為すべきことであり、それが全体最適だと思っています。顧客からすればうちの内々の都合なんて関係がないのですから

 そのため、今回は明らかに他部署の仕事だったのですが、それをその部署が拒絶してボールが落球しそうだったのでキャッチしに行ったところ「顧客の要求を満たせなくても我々の責任ではないから手を出すな」と止められました。

 

 その停止は、理屈面では納得していません。

 ただ、部署のマネージャーが自部署の効率を優先すること、それはマネージャーに求められている職務である以上、絶対的な否定もできません。部分最適に陥ってはいますが上司の言い分にも間違いなく理があります。

 この是非は最終的には組織文化によって定まるものであり、その文化に対する責任者は経営陣です。組織が老化して隙間によるエラーが生じてもいいと上層部が判断しているから部署のマネージャーには部分最適を優先させているのであり、上層部の無能に対して私や上司が揉めても意味がありません。

 

 そのため、少し揉めた程度で終わりです。この程度の揉め事は日常茶飯事であり、とりあえず私が噛み付いて、上司が流して、それで手打ちとなる、週1回くらいの頻度で起こる様式美です。