忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

「日本人は会社への貢献意欲を持っている人が5%しかいない」は解釈を間違えている

 正しくは、「日本の組織・リーダー・マネージャーは従業員の5%からしか熱意を引き出せていない」です。個々人に問題があるのではなくマネジメント層に問題があると提言しているのが米調査会社ギャラップの調査報告であり、そこに言及しないと読者が誤解しかねません。

 

www.sankei.com

 

 従業員エンゲージメントに関する新聞やメディアの記事を見かける度に噛みつく、それが私です。

 

(過去の噛みつき記録)

 

 今回もさらっと噛みついていきましょう。

 

終身雇用は本題ではない

 新聞記事上では終身雇用が槍玉に挙げられていますが、本当にギャラップのレポートを読んだのか気になるレベルです。全14ページのとても短いレポートを読んだうえで終身雇用にフォーカスを当てたのであれば、明らかに不正確な解釈間違いだと言わざるを得ません。

 

 たしかにレポートでは終身雇用に2回言及されています。

 しかし言及自体は「長年にわたる終身雇用制度は、日本における従業員エンゲージメントが低い一因と考えられています」と伝聞調であり、レポートの結論ではありません。もう1つも「終身雇用という慣習は日本では一般的ですが、この傾向は近年変化しています」と、ただの実情を述べているだけです。

 レポートを作成したディレクターの見解は「日本の組織は、従業員への対処の仕方を変えなければならない時期に来ていると考えます」であり、組織が従業員へどう接するべきかがこのレポートのフォーカスしている内容です。終身雇用の話はまったくもって重視されていません。

 

問題視されているのはどこか

 だからこそ、レポート中では次のように言及されています。

日本の組織のリーダーやマネジャーにとって、エンゲージしていない従業員への対処こそが、成長と変化をもたらす最大の機会となるでしょう。このような従業員は、リーダーやマネジャーが彼らともっと対話し、励まし、鼓舞してくれるのを待っています。対処方法を少し変えるだけで、生産的でエンゲージしたチームメンバーに変わるかもしれません。

リーダーやマネジャーは外部のストレス要因を変えることはできませんが、従業員の生活全体におけるストレスに変化をもたらすことはできます。ギャラップの分析では、従業員が職場でエンゲージすると、生活におけるストレスが大幅に改善されると報告しています。

ギャラップが数十年にわたって実施してきた職場の従業員意識調査からは、部下のモチベーションを高める方法を知っているマネジャーさえいれば、こうした従業員がさらに成果を上げることができることが分かっています。チームエンゲージメントの  70 % はマネジャーに起因するのです。


すぐれたマネジャーは、コーチングにより部下を成功に導きます。彼らは持って生まれた強みに照準を合わせ、献身的なチームをつくり、パフォーマンスを向上させ続けます。従業員一人ひとりの強みに合わせたフィードバックを頻繁に行います。ひとりひとりの期待値を明確にし、すぐれた成果を承認・称賛し、個々の仕事が組織のミッションとどのようにつながっているかを説明します。また、チームメンバーは互いに異なる才能や意見を持ち、職場外にも生活があることを互いに理解しています。

引用元:2023 年版 ギャラップ職場の従業員意識調査:日本の職場の現状

 

 このレポートを読んで「日本人は会社への貢献意欲を持っている人が5%しかいない」と問題提起をするのはおかしな話です。どう読んでも「日本の組織・リーダー・マネージャーは従業員の5%からしか熱意を引き出せていない」ことを問題視しているのであり、問題としてフォーカスされているのは下層の従業員の熱意ではなく上・中層のマネジメントです

 

ギャラップをなんだと思っているのか

 そもそも米調査会社ギャラップ(Gallup)の仕事を考えれば簡単な話で、彼らの本業は世論調査とコンサルティングです。

幸いなことに、このような科学に基づいたマネジメント手法は学ぶ事ができます。ギャラップは過去 3 年間に 14 , 000 人以上のマネジャーにコーチングトレーニングを提供してきました。トレーニング後最大 18 か月で、マネジャー自身のエンゲージメントは  10 % から  22 % 向上し、チームのエンゲージメントは  8 % から  18 % 高くなっています。

 つまりこの調査の意味するところは「日本人の仕事への熱意」なんて曖昧なことではなく、「我が社にコンサルティング料を払えば貴社の業績を向上させますよ」とした宣伝です。それ以上でもそれ以下でもありません。

 

結言

 どうにもギャラップの従業員エンゲージメント調査を自論に都合が良いように用いる新聞やメディアが散見されます。そういうのはあまり好みではありません。