「従業員にコンプライアンス研修をしましょう」なんてセミナーの広告メールが届きました。
うーん。
研修をすべき対象
もちろん従業員に何らかの研修を受けさせること自体は否定しません。それはそれで必要なことですし効果はあります。
ただ、真っ先にコンプライアンスの研修を受けなければならないのはトップ層です。末端の従業員ではなく上位の経営層こそが研修の対象となる必要があります。
昨今の品質不正や企業不祥事が露呈した経路の多くは内部告発です。組織内の内部通報システムが適切に機能しておらず自組織内での体質改善や自浄ができなかったために外部機関へ告発したことが理由であり、つまり末端の人間はちゃんとしたコンプラ意識を持ち自組織内の不祥事や悪事を認識してその是正をすべきだと考えているものの、それを組織の上層部が是認していないことが根本的な問題です。
当たり前の話ですが、組織とは否応なしに上下関係の権威勾配が存在しているものであり、どのような研修においても末端に施すだけでは意味がありません。どれだけ最新の管理手法を末端に教育してもそれを上司が理解していなければ活用することはできませんし、どれだけ適切なコンプライアンス研修を末端が受けたとしてもそのコンプラ意識を通すためには上司の理解が必須です。
末端の従業員がどれだけ高いコンプラ意識を持って行動したとしても、上司はそれを握り潰すことができます。だからこそ真っ先にコンプラ意識を醸成させなければいけないのは経営者や管理職です。
昨今で世論を賑わせた大手製造メーカーの品質不正も、大手中古車販売会社の保険金不正も、大手芸能事務所の不祥事も、末端が勝手にやったことではなく上層部の意向で行われたことです。末端がそれらを認識しつつも組織内で自浄できず、結果として外部機関の査察や内部告発に頼らざるを得なかったことは事実として認識する必要があります。
不正のトライアングルを潰すためには動機や機会を生まない組織デザインが必要であり、そして組織デザインはボトムアップではなくトップダウンで行う以外はありません。組織の末端に組織構造を弄る権限はないのですから、これは当然のことです。
よってコンプライアンスを重視する組織を作るのであれば、末端にコンプライアンス研修をするのは最後の最後です。まずは社長がコンプライアンスを学び、執行役員や本部長クラスに教育をしたうえでコンプライアンスを考慮した組織作りを指示し、さらに下部の管理職に教育して具体的な施策を構築したうえで管理職が部下を教育し、と上から下に伝達していく以外はありません。
だからこそ、「従業員にコンプライアンス研修をしましょう」なんて寝言のようなことを言っている場合ではありません。
結言
上層部への教育の重要性に関しては三菱電機さんの品質不正における第三者委員会の提言が分かりやすいでしょう。
調査報告書では調査委員会の提言が最後にありますが、それを見るとよく問題を理解していることが分かります。
(提言の最後を意訳)
第1報:経営陣は絶えることなく様々な措置や工夫を行い続けろ
第2報:経営陣は「ものが言えない風土」を本気で是正しろ
第3報:品質教育が必要なのは現場だけじゃなくて経営陣もだ
組織の体質や仕組みを変えられるのはトップ層の経営陣だけです。
よってコンプライアンスを重視した組織を構築するのであれば、まずは末端ではなくトップに教育する必要があります。