二日続けて軍事の話をするのは恐縮なのですが、なんとなく語りにくい話題なので続けて書き切ってしまいましょう。
今回は毎年の恒例行事である中国の全人代、そこで発表された国防費について雑感を述べていきます。
◆中国 ことしの国防費 日本円で34兆8000億円余 昨年比7.2%増 | NHK | 中国
軍事の話はヘヴィになりがちなので、なるべく軽めの口調で語っていきます。
大人になるとニュースが分かるようになる
子どもはあまりニュースに親しみませんが、大人になるとニュースを見るようになる人が多いかと思います。
もちろんビジネス目的であったり話題作りであったりと人それぞれニュースを見る理由はあるかと思いますが、その内の一つに大人になるとニュースが理解できて面白く感じるようになることが挙げられると考えています。
ニュースはどうしても断片的な情報です。調査報道記事やテレビ番組など解説付きでニュースが報道されることもありますが、多くのニュースは背景事情や関連情報を知らなければただの情報(Information)に過ぎません。
ただの情報(Information)を見ても何も面白くありませんし理解もできないので、だからこそ子どもはあまりニュースを好みません。対して大人は子どもに比べれば様々な知見を持っていますので、断片的な情報(Information)から意味のある知識(Knowledge)を抽出できます。つまり新たな知見を得て知的好奇心を満たせるようになることから、大人になるほどニュースを面白いと感じるようになります。
>>中国 ことしの国防費 日本円で34兆8000億円余 昨年比7.2%増
関連情報が無ければこのニュースもただの情報(Information)です。しかし他の情報とつなぎ合わせると意味のある知識になります。
関連情報
そんなわけで、一例として私がこのニュースを見た時に繋ぎ合わせた関連情報を提示してみましょう。
まずは単純な数値。
7.2%アップして約34兆8000億円ということは、計算すると約2兆2700億円くらいの増額です。日本の24年度防衛予算案では1兆1200億円くらいの増額予定ですので、まあ大雑把に日本の2倍くらいの増額になります。
もちろん物価や為替の影響はありますので単純に2倍とは言えません。中国では日本やアメリカの軍事予算の多くを占める人件費が安いため、装備や研究に掛けられる配分を考えると実質的には2倍では済まないでしょう。
次に金額の意味。
NHKの記事でも解説されていますが中国の公表国防費をそのまま額面通りに受け取ることは間違いです。
本来的に軍事費とは機密性が必要なお金であり、全てを公開することは手の内を曝け出しているようなものですのでどこの国でもある程度グレーな数字になります。
とはいえ民主主義国家では税金の使途があまりにもグレーだと国民の不信を招くことから、軍事費についてもある程度信頼できる総額を公表します。対して中国は予算の使途に国民が堂々と文句を言える政治体制ではないため、予算の公開範囲を国家がコントロールできます。
これだけですと陰謀論的ですのでもっと率直に言えば、中国では国防費(National Defense Expenditure)とは別枠で軍事経費(Military Expenses)が計上されています。
例えば武器の輸入や軍事研究開発費、民兵や予備役に掛かる費用などは日本やアメリカであれば軍事費にまとめて計上しますが、中国では公表国防費を近隣諸国に近いGDP比に合わせるため別枠計上です。「我が国はGDP比で見れば他国と比べて軍拡していない」と発表時に毎度言い訳のように言っていますが、公表国防費だけで中国の軍事予算を見るのは明確に誤りです。
前述したように軍事費は国家機密のグレーな情報であり正確な値を把握することはできません。中国の軍事費については欧米のシンクタンクや官庁が分析しており、少なくとも実際の軍事費は30~40%高いだろうと推定されています。米国防総省はもっともっと多いと推定していますが、アメリカの国内的な事情(国防省の予算アップの言い訳)もあるので信頼性はほどほどです。
最後に近接情報との接続。
1990年頃から中国の国防費は毎年大幅に伸び続けており、伸び率は鈍化したもののそれでも未だなお軍拡路線です。
中国がただ軍拡を進めているだけであれば今年も今まで通りで、いや今まで通りに軍拡されるのも困った話ではありますがそれはさておき、少し怖いのは2023年に習主席が穀物の増産や食料生産の多様化などを指示した点です。
もちろん昨今は世界情勢の不安定化に伴い食料やエネルギーの国際的な懸念が広がっており、2010年頃から食料輸入大国となっている中国が食料安全保障を高める行動を取ることは自然ではあります。
ただ一般論として、開戦リスクを計るのであれば武器よりも食料・エネルギーを見たほうが明確なものです。国家は開戦前には資源を溜め込みます。欧米のアジア問題に関する専門家がここ最近台湾有事のリスクを高く評価しているのはこれが一因だと言えるでしょう。
経済成長が鈍化しつつある中国で、軍事費を押さえて食料生産を増やすのであれば国内問題への対応だと明確ですが、軍事費は例年通り上げつつ食料生産まで増やすとなると、まあ他国から疑念を持たれるのも止む無しです。
結言
このような感じで、一つのニュースに対して関連情報を色々と持っていれば読み解けることが増えますので、持っている情報が増えれば増えるほどニュースが理解できて面白くなるかと思います。
まあ、別にニュースを読み解ける必要は無いのですが。
何はともあれ、中国にも言い分があるのは分かりますが、軍事費をもりもり増やすのは止めて欲しいものです。
余談
そんなわけで、ここのところの金門島辺りの不穏な空気がとても怖いです。
軍事的な台湾統一のチャンスはどう考えても今ではないはずですが、今年は大統領選挙でざわついているアメリカの目を盗んでサラミ戦術をチャレンジするタイミングがありそうなので・・・