忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

ロシアが恵んでくれる自由はどの程度か

 昨日の記事の続き。

 ヘヴィなテーマではありますが、権威主義国家の国民が得られる自由に関して語っていきましょう。

 

「自由」の測定

 各国の自由を測定している団体や指標は様々ありますが、その中でも代表的な指標として国際NGO団体フリーダム・ハウスが毎年公表しているFreedom in the Wolrdがあります。

 この指標では各国の『政治的権利』と『市民の自由』を100点満点のスコアで測定しており、当ブログでも2022年と2023年の日本のスコア・評価を記事にしています。

 

 2024年のスコアもすでに発表されており、日本は例年と変わらず96/100点です。

 

 さて、昨今ではロシアによるウクライナ侵攻が長期化するに従い世界的な厭戦気分が広がりつつあり、ウクライナは領土や国民を諦めて講和すべきだとした見解も多々見かけるようになりました。

 それもまた一つの見解だとは思います。

 ただ、戦争による被害を論ずるのであればロシアの支配下に置かれた場合の被害も天秤に乗せなければ論拠足り得ないだろうと思いますので、今回はFreedom in the world2024からロシアによる支配の実情を見ていきます。

 

ロシア支配下での自由

 まず、Freedom in the world2024によるロシアの評価は13/100点です。

 これは測定された210国家/地域の中では大体30番目くらいに悪い数字です。国民は様々な自由が制限されています。

 対してウクライナの評価は49/100点です。戦前はおよそ60点で、優等生とまでは言えないものの世界の平均よりは高いスコアでしたが、戦争突入後は戒厳令による選挙の停止やメディアの言論統制が起こっているためスコアを落としています。

 

 2014年にロシアが編入したクリミア地域のスコアは2/100点です

 現在のクリミアは世界ワースト10に入る自由の無い地域となっています。


 レポートを読み取っていきましょう。

 まず政治的権利は-2/40点です。Freedom in the worldでは特別な場合のみマイナス点が付与されますが、クリミアはその特例の一つとなっています。

 クリミア共和国の首長は国家評議会によって選ばれますが、その候補者はロシアが作成したリストに基づいて選定されます。

 ちなみに現在の首長はアクショーノフですが、彼が首長に任命された2014年は議会がロシアの武装勢力に占拠されて国会議員が銃を突き付けられた状態での選出です。なんとも、理解しがたい話です。

 また、国会議員はロシアによる占領を支持しなければ立候補できません。野党は親ロシアを表明しなければ登録できません。選挙制度はロシアの支配下であり、反対する勢力を抑え込むために保安庁や警察、親ロシア派の「自衛」組織が暴力的な抑圧を行っています。反ロシア派の人物は逮捕・投獄されるため、人々は自らの政治的権利を行使する公的な機会を失っています。

 政府の政策はクリミアの議会ではなくモスクワで決定されます。

 公務員の汚職も蔓延していますが、メディアが当局から規制されているため責任の追求はなされません。

 -2点の特別な減点理由は同化政策に起因します。クリミア半島では現在、学校教育からのウクライナ語の廃止、ウクライナ正教教会の閉鎖、意に反する国外追放や移住の強制、強制徴兵による国民の兵士化などが起こっています。

 

 次に市民の自由は4/60点です。

 報道の自由はありません。反ロシアの言説を報じれば懲役を科されます。一部のジャーナリストは当局によって「失踪」することとなりました。多くの裁判は非公開です。テレビ・ラジオ・インターネットは遮断・検閲されています。

 信仰の自由はありません。従来登録されていた宗教団体は規制されて激減しています。

 学問の自由はありません。教育カリキュラムはロシアによって定められます。一部の子どもには基礎的な軍事訓練が施されています。密告が蔓延るようになり、教師や教授は教え子の通報によって解雇・逮捕される危険があります。ロシア当局はウクライナ侵攻に反対を表明する個人について情報を提供するよう人々に奨励しています。

 集会・デモの自由はありません。実施すると逮捕されることがあります。政治団体、NGO団体、労働組合などは当局から弾圧を受けています。

 独立した司法機関はありません。裁判官はロシア人、またはロシアの国籍を取得する必要があります。民法・刑法はロシア連邦の法律に置き換えられました。公開法廷審理に出席しようとした傍聴人ですら拘束された例が複数あると報告されています。人権侵害の被害者を支援する独立系弁護士は当局からの報復を受けています。

 暴力からの自由はありません。被拘禁者は当局から拷問や虐待を受けています。被害者にはそれらに対抗する法的手段がほとんどないため、治安部隊は何の処罰も受けずに活動しています。

 多くの差別が生じています。ウクライナ人やクリミア・タタール人は公的な差別や嫌がらせの対象です。

 移動等の自由はありません。パスポートは返納が強制されました。女性は海外へ逃げることもできず、男性は軍事委員会の許可がある場合、すなわち兵隊としてのみ出国が許可されます。

 財産を所有する権利は著しく制限されています。2022年、クリミアに住むウクライナ人の企業と財産が国有化されました。同時に軍事目的での私有財産の没収も認められました。

 機会の平等と経済的搾取からの自由は享受できていません。物品やサービスへのアクセスは制限されており、主要産業は停滞し、人身売買が横行しています。強制労働・強制徴兵が行われており、子どもでさえ軍事訓練やロシアへの教化活動を強制されたと報告されています。

 

結言

 ウクライナ人が今なお士気を保って抵抗しているのはこのような同胞の実情を知っていることが一因かもしれません。

 ロシアの目的がウクライナの非武装化、すなわち占領である以上、少なくともウクライナの前線で戦っている人々が現時点で停戦した結果どうなるかはクリミアを見れば明白です。

 彼らは家に帰れるのではなく、クリミアに住む人のように徴兵されて別の戦場でロシアの先兵として送り込まれることになります。それがフィンランドなのか、ポーランドなのか、バルト三国なのかは分かりませんが、決して望ましくない話です。