忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

政治的な意思決定者は落としどころを考えなければいけない

 ロシアとウクライナの戦争に関して各所様々な界隈で話題となっています。世界中が持ち切りで熱狂と言ってもいいかもしれません。先日も久しぶりに外食したところ、バイトらしき若い女性2人が戦時におけるSNSでのフェイクニュースについて語り合っていて、社会派で立派な若者達だなぁと感心しました。熱が入って話し込んでいたので店長に叱られたりしないか心配になったほどです。

 しかし、誰もが注視しているそんな状況だからこそ少し別の視点が必要かもしれないという話をします。

 

少し報道やイデオロギーが過熱しすぎている気がする

 残念な事実ではありますが、戦争自体は毎年のように発生しています。近年であれば2020年のナゴルノ・カラバフ紛争、2020年まで長く続いていたリビア内戦、2014年のクリミア危機やイスラエルのガザ侵攻、今なお続くイエメンの内戦などです。それらの戦争と比べて今回のロシアによるウクライナ侵攻は報道量が遥かに多く、世界中から注視されています。少し過熱気味と言えるかもしれません。

 大国による戦争ということであればロシアは2014年にもクリミア半島へ攻め込んでいますし、それこそアメリカやNATOは最近までアフガニスタンで戦争をしていました。

 ヨーロッパでの戦争だからというわけでもないでしょう。2020年のナゴルノ・カラバフ紛争はアルメニアとアゼルバイジャンの戦争であり、どちらもヨーロッパの国です。

 SNSの浸透というのもまた違う気がします。2020年のナゴルノ・カラバフ紛争でも現地の情報がリアルタイムでツイートされたり各国の政府機関がSNS上でプロパガンダや宣伝戦略を取っていましたので、戦争とSNSのリンクはすでに以前からのものです。

 実際の理由は様々あるでしょうが、イデオロギー(政治体制や主義)の違う国家がヨーロッパの民主主義国家に戦争を仕掛けてきたということに尽きるのかもしれません。歴史的に培われてきた欧米のロシアアレルギーもそれを助長しているのでしょう。もちろん第三次世界大戦の勃発が起こり得る可能性があることも見逃せない要因ではありますが、大きな理由は政治的イデオロギーの違いにあると感じます。

 いえ、まあ、「青い目とブロンドヘアーのヨーロッパ人が殺されているのを見ると、非常に感情的になる」というような、BBCによるインタビューでの回答が欧米の本音なのかもしれませんが。

 

落としどころはどこになる?

 いずれにしても報道や各国の反応は少し過熱気味になっています。特に懸念しているのは「プーチン大統領の精神状態」に関する報道や分析が増えていることです。

 私は争いや戦争が嫌いなので、人々が戦争に関心を持ってそれを忌避する気持ちを持つことを良い事だと思います。しかし実際に精神科医が直接会って診断したわけでもないプーチン大統領の精神状態なんてものはただの憶測に過ぎず、あまつさえ各国首脳や報道機関が得意げに語るような話ではありません。

 そりゃあ私だって粗暴な表現で言えば「あの馬鹿何考えてんだ?」とは思っています、それは当然の気持ちでしょう。しかし政治的な意思決定者はそんな快不快の情で動くのではなく、具体的で現実的な落としどころを探す行動をしなければいけません。

 

悪魔化・人間性の抹殺

 相手は我々とは違う、何かおかしい、変な奴らだ、真っ当な人間ではない、というように、敵対相手や敵対集団を異質な悪魔的存在と定義してレッテルを貼る行為を悪魔化(Demonization)や人間性の抹殺(Dehumanization)と言います。相手は悪魔であり人間では無いのだから攻撃して良い、という論理です。特に政治的・軍事的・イデオロギー的対立において頻繁に用いられる手法で、中世における十字軍が代表的な悪魔化の事例です。今回であればアメリカによる「プーチンの精神状態がおかしい」発言やロシアによる「ウクライナのナチズム」発言が該当します。第二次世界大戦であれば「鬼畜米英」や「イエローモンキー」が代表的なものといえるでしょう。

 これは集団の団結を高めて士気を保つには確かに効果的ですが、相手に非人間性を付与することは交渉の余地を削り取って争いが激化することに繋がります。相手は悪魔だから話し合いは通じない、悪は打倒しなければならないと考えるようになると、争いの止めどころが無くなってしまうのです。どちらかが徹底的に打ちのめされるか、互いに疲れ果てるまで争いは続くこととなってしまいます。

 今回、西側諸国はロシアを更地にするまで止まらないような戦争の拡大は望んでいないと考えます。私個人としてもそのような大戦争は絶対に回避してもらいたいです。だからこそ、政治家や報道機関によるロシアの悪魔化をするような行為に懸念を持っています。

 各国の政治家が今すべき仕事は、経済制裁によってロシアの手足を縛り、被災者や負傷者には分け隔てなく支援を行い、専門機関に情報分析を任せ、必要に応じて軍事オプションをチラつかせ、ロシアを追い詰めすぎないよう交渉の椅子に引きずり出す努力をすることであって、「あいつは頭がおかしい」なんて言ってる場合ではありません。

 

 政治的な意思決定者は戦争に責任を持ちますが、それは「争いを始める」ことよりもむしろ「争いを終わらせる」ことに対してより多くの責任があるのです。その責務を全うすることを期待します。

 

 

余談

 日本やアメリカでロシア人が被害を受けたという報道を見ました。

 ロシアが戦争を始めた→ロシア人は悪い→だからロシア人は迫害してもいい、という理屈なのでしょう。これも悪魔化の一種です。しかし「ロシア人だから悪い」も「悪い人を迫害してもいい」も明らかに論理的誤謬ですので、そんな馬鹿なことは絶対に止めてもらいたいものです。