忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

同族企業に関する善し悪し

 インターネットの一部で蛇蝎のごとく嫌われている同族企業(家族経営、ファミリービジネス)について、少し自論を語っていきます。

 

悪いことばかりではない

 初春になるとSNS上で新社会人や就活生に向けた先達の様々なアドバイスが溢れかえります。役に立つものも極端なものも様々ではありますが、まあ概ね善意に基づいた提言ですので無下にすることもないでしょう。

 その中の一つに「同族企業は避けるべき」とした提言を時々見受けますので、それについて述べていきます。

 

 まず第一に、同族企業は極めて一般的な形態です。

 日本は同族企業の比率が高いと言われており、企業全体の9割、上場企業に絞っても5割は同族企業です。とはいえイギリスやアメリカだって8割は同族企業であり、決して特殊な形態ではありません。

 そのため、ただ同族企業だからというだけの理由で避けた場合は相当な数の企業が除外されることになります。極論、国内であればサントリーやファーストリテイリング、ヤンマーや山崎製パン、海外であればウォルマートやフォルクスワーゲン、サムスンやロシュなど有名な企業であっても選択から漏れてしまいます。

 自ら選択の幅をむやみに狭めるのはあまり利口な選択だとは言えないでしょう。

 

 次に、同族企業は倒産リスクが低いです。

 これは単純に統計にも表れていますし、理屈的にも説明がつきます。

 同族企業はその存続の前提として「次世代へ引き継ぐ」ことが根底にあり、そのために保守的ではありますが堅牢なガバナンス構造を維持しようとする強固な力があります。

 また経営権や株式を一族が独占している状態は外部からの参入を拒む負の側面を持つと同時に、短期的な配当を求める外部からの干渉を受けずに長期的な経営が可能であるとも言い換えられます。

 もっと言えば、同族企業は”財閥化”しやすく、そして財閥は概ね悪い印象をもたれがちなものではありますが、財閥化できるほど同族企業には堅牢さがあると捉えることも可能です。

 つまり同族企業のほうが倒産しにくく、一つ所で働くことを志望するのであれば充分選択肢に入ることでしょう。

 

同族企業か否かではなく、自分に合うかどうか

 まあ、とはいえ同族企業にデメリットがあることも事実です。

 保守的なガバナンス構造は必然的に企業風土を硬直化させて風通しの悪い職場環境を作り出しますし、存続を前提としているために大きな躍進を狙ったチャレンジを避ける傾向を持ちます。一族の理念と規模次第ですが一定以上の職位は独占されていて外様では出世に限度があることも負の側面です。

 同族企業は上昇志向を持つ若者にとって居心地の良い組織環境にはなり難くあります。

 

 よって野心のある若者は同族企業を避けたほうが無難でしょう。

 安定志向の堅実な若者は同族企業も充分選択の余地があると思います。倒産リスクが低いことは安定を好む人間にとって大きな恩恵です。

 

 何はともあれ、重要なのは同族企業か否かではなく、自分に合うかどうかです。

 他者のアドバイスはどうしても簡潔で表面的になりがちなものですが、その背後にはアドバイザーの経験に基づいた何らかの理由が存在しています。人は理由も無しに他者へアドバイスをしません。「同族企業は避けるべき」としたアドバイスだって、当人が同族企業の会社で何かしらの好ましくない経験をしたからこその提言でしょう。

 よって他者のアドバイスを字面通りに受け取るのではなく、その理由を推察し、その理由に基づいてアドバイスを受け入れるかどうかを判断したほうが賢明です。

 

結言

 このブログで度々述べていることですが、重要なのはノウハウではなくノウホワイです。KnowHow(どうやるか)は一見シンプルで分かりやすく見えますが、そのバックグラウンドには膨大な情報が潜んでいます。その情報を探り、推察し、理解するKnowWhy(なぜやるか)こそが真に重要で価値のある情報です。

 企業選びも同様、「同族企業は避ける」はノウハウであり、「なぜ避けるべきか」のノウホワイにこそ着目する価値があります。

 

 

余談

 経営者一族だからこそ子どもを厳しい環境に放り込んでキッチリ育てるタイプもあれば、甘やかされて無能なままポジションに付くタイプもあり、はたまた神輿の殿様がポンコツでも優秀な家臣団が差配しているようなタイプもあるように、中身は様々ですので同族企業の是非を十把一絡げに語ることはできません。

 「三代目が会社を潰す」のもまた現実ではありますが、では生え抜きであれば経営能力が高いかと言えばそれも保証できるわけではありません。

 いずれにせよ企業の中身は入ってみないと分からないのでなんとも難しいところであり、今どきの若者の転職志向が強いのは企業とのマッチングの面からすれば実に現実的で宜しいことです。