忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

足らんものは足らんのじゃ

 「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」という素晴らしい言葉があります。太平洋戦争中の日本の標語ですが、現代社会でも一部の方が金科玉条としてお持ちいただいていらっしゃるお言葉です。あまりにも素晴らしい宝石のような言葉ですので、後ろ足で砂をかけて埋めてしまいたいと心から願っております。お宝を埋めて隠しておきたい犬のような気持ちです。化石になるくらい長い間地中に埋めておけば少しはマシになるのではないでしょうか。

 今日は足らぬこと、リソース不足についての取るに足らない話をしましょう。

 

リソースが足りないのは現場の責任ではない

 先進国では少子高齢化による人手不足が進むものです。日本社会においてもベテランの退職と若手の減少によってどこもかしこも人手不足でしょう。また不景気が長く続いたこともあり、組織は設備投資にあまり力を割くことが出来ませんでした。グローバル化の進展による資本力格差も目立ちます。

 よって組織運営におけるリソースの基本であるヒト・モノ・カネ・情報が有り余っている組織はほぼ存在しません。あるところにはあるでしょうが、日本やその他先進国ではそのような組織はほとんど無いでしょう。余力があるのは一部の魅力的な先端企業や投資が集中している開発途上国の企業くらいでしょうか。

 少子高齢化・不景気・グローバル化とそれらを起因とするリソース不足は自然災害と同様やむを得ないものであり、当然ながら現場の責任ではありません。荒天に文句を言っても仕方がないので乗り越えるための努力をする必要はありますが、原因とその結果に対する責任はありません。

 もちろん経営層にもリソース不足の原因そのものへの責任はありません。神様では無いのですから世界の情勢や環境の変化自体をどうこうすることなんて求めるべくも無いでしょう。

 

 しかしながら経営層には組織運営の舵取りについて責任があります。船長や機長が荒天を予測して事前に針路を変えて避けるように、起こり得る事象に対してどう舵取りするかは経営層が決めなければいけませんし、その責任があるのです。リソース不足への対処は現場の戦術レベルではどうしようもないことであり、経営の戦略レベルで対処すべき問題だということです。それを見誤って大失敗をしたのが大日本帝国なのですから、それを踏襲すべきではないと考えます。

 よってリソース不足が生じる原因自体への責任は経営層にありませんが、リソース不足が生じないようにすることや生じた場合にどう舵取りをするかというマネジメントには責務を負っています。「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」というのは現場に向けて言う言葉ではなく、経営層が受け止めなければいけないものです

 そもそも論としてリソース不足で直接的に困るのは現場です。誰だって困りたくはありませんので、現場はリソースの分配や不足分の工夫を当然の如く行います。尻に火が付いたら嫌でも走るものであり、いちいち工夫云々を語られるまでもありません。そんな現場の努力を見込んで甘えるのではなく、現場の尻に火が付かないように処置したり消火剤を用意しておくのがマネジメントの仕事です。

 

過去の経験を思い出す

 「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」に類することを耳にする度、過去の嫌な経験を思い出します。少しぼかしつつ振り返ってみましょう。

 忘れもしない、10年くらい前、多分そのくらい・・・忘れましたけど、大体そのくらい前の話です。日付をぼかしたいのではなく覚えていないだけです。まあそれはそれとして、あるトラブルによって高分子材料が入手できなくなったことがありました。本来であればそうならないよう複数の調達ルートを用意しておくのですが、その時は単一ルートしかありませんでした。これは調達管理のミスですが、起きてしまったことは仕方がありません。

 仕方がないので先輩と私で別の高分子材料の使用を検討することになったのですが、耐薬品性や膨潤といった物性に問題が無いかを評価するには数か月掛かります。その際の先輩と別部署の人のやり取りを思い出す度、工夫とは一体なんなんだろうと思うのです。

「在庫が無いから新材料の評価を3日で完了してくれ。」

「無理言わんでください、評価人員は足りませんし、そもそも3日じゃ評価なんてできません。耐久性の評価にはせめて3ヶ月必要です。」

「人や時間が足りないっていうのは言い訳に過ぎない、なんとか工夫してやってくれ。」

「物理法則を捻じ曲げる工夫ってなんですか。じゃあせめてそちらの人手を貸してください。単純な作業をやらせますので。」

「こっちの人手も足りないんだから貸せるわけないだろう。」

「足りないっていうのは言い訳に過ぎないんじゃないんですか?工夫してくださいよ。」

 最終的にはもっと偉い立場の人達が喧々諤々のバトルをして落としどころを見つけてくれたので、まあ、マネジメント層がケリをつけてくれた案件としてそこは良い事例ではありますが・・・ピチピチの新米としてはハラハラしたものです。工夫も何も、足らぬものは足らんのですよ・・・