忘れん坊の外部記憶域

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なぜ民主化が進まないのかに関する雑感〜リプセット命題に思うこと

 ネットの記事を巡回していた際にふとリプセット命題の文字を見かけたので、少し雑感を書いてみます。

リプセット命題(リプセット仮説)

 リプセット命題(リプセット仮説)とは民主移行論の一つで、アメリカの社会学者であるシーモア・マーティン・リプセットが提唱した命題です。内容はとてもシンプルで、次のようなものです。

経済発展は中間層を形成し、政治の民主化をもたらす

 特に資本主義と社会主義の対立が顕著であった冷戦期、西側の資本主義が民主主義をもたらすという理屈の一つとして用いられており、当時は定説とまで言われていました。現在では中国やアフリカなど経済発展した国家においても民主化がなされていないという反証が存在することから、懐疑的な目線を向けられています。

 勉強不足な素人の雑感程度となりますが、リプセット命題について思うところを書き連ねてみます。

条件不足だと思う

 中間層の厳密な定義はありません。所得シェアの20~80%に属する層や、所得中央値の0.75~3.0倍に属する人という定義が一般的には用いられています。しかしそれは確かに"中間"層ではありますが、良い生活を出来ているかは別です。格差が極端に広がっていけば低所得者でも”中間”層にはなり得るからです。

 よってリプセット命題で用いられている中間層の解釈は、中程度の収入があり、富裕層のように金銭的な余裕が有り余っているほどではないが多少の支出程度であれば余裕を持って行える層、中流階級と考えたほうが良いでしょう。

 中間層の拡大が民主化に必要であることは歴史的な事実です。梅棹忠夫氏が「文明の生態史観」で述べたように民主化の順序は専制→封建→民主という経路を辿ります。中間層が拡大しなければ民衆の発言力は高まらず民主化は起こり得ません。

 ただしリプセット命題で抜けているのは中間層の拡大条件だと考えます。

 中間層が拡大するには二つの道筋があります。一つはたんなる経済発展によって全体の所得が増加して中間層が増えるパターン、もう一つは権力が分譲されることによって経済的に豊かになり中間層が増えるパターンです。

 最初から民主主義国家として成立したアメリカのような特例はさておき、欧州や日本を代表とする現在の民主主義国家が辿った道の多くは後者です。これらの国々は最初に王権を元にした専制政治があり、集団の規模が大きくなって少数の権力者が支配し切れなくなったことから権力が分譲されて封建政治へと移行し、その結果諸侯や民衆が資本を蓄えられるようになったことから発言権が高まって民主化へと至っています。つまり経済発展は後で、まず初めに権力の分散が起きていたということです。

 対して中国やアフリカのようなリプセット命題の反証となっている国々では中央集権、すなわち専制政治が未だ残っており、封建制のような権力の分散が発生していません。権力が分散されたことによる経済発展ではなく、グローバリズムでの資本投下によって経済発展が起きています。権力が分散されていないのですから民衆の発言権が高まるはずもありません。それでは民主主義に至ることは無いでしょう。

 権力の獲得に伴う経済発展によって生まれた中間層でなければ民主化に資することはないと歴史の反例が示しているのだとすれば、リプセット命題は前提を付け加えて、権力の分散は経済発展を促し、経済発展は中間層を形成し、政治の民主化をもたらす、とするのが適切かと愚考します。

 そう考えると「経済発展すれば中国も民主化して友好的になる」として莫大な援助を行った当時の日本や欧米は相当な勘違いをしていたのだということになりますが、まあ誰にでも間違いはあるので仕方がありませんね。

余談

 中国が民主化するには中央政府が権力の独占を維持できずに地方政府に権力を分譲してからとなるでしょうが、そうなると軍閥化して内乱になりそうなのでなんとも難しいところです。そもそも規模が大き過ぎるのが課題ですので、国を少し分割したほうが統制しやすいと思います。3つくらいに分けるのがいいんじゃないでしょうか。天下三分の計リバイバルということで。まあ、失敗したことがあるので誰もやらないでしょうけども。

 パッと思い付きで書き連ねた雑感のため、少し内容が浅い気がします。民主化についてはいずれもう少し練って記事を書いてみたいです。