何回目かは忘れましたが、また「品質」の話をしましょう。
「質(たち)が悪い」という日本語があります。悪質であったり性格が悪かったりと、物事の性質が良くないことを指す言葉です。
私たちが日常的に使いつつも正しい意味を理解することは存外に難しい「品質」。
これは「質(たち)が悪い」という言葉を軸にすると理解が容易になるかと思います。
(品質に関する別の解説記事)
品質の意味するところはとても幅が広い
品質とは言葉の通り、品物(サービス)の性質です。
私たちは品質(クオリティ)と性能(パフォーマンス)を混同しがちなものですが、品質が意味するところは幅広く、品物(サービス)が保有しているありとあらゆる性質を指します。
身近なものとして食品を例にしてみましょう。
食品の品質とは多くの場合でその食品の性能である「味」や「鮮度」と同一視されがちです。普通の会話であれば美味しい食品は高品質だと言われることでしょう。もちろん「味」と「鮮度」は食品において最重要な性能であり、かつ評価される品質特性であることは間違いありません。
しかし実際にはユーザーはもっと幅広い品質特性を感覚的に捉えています。食品の入手しやすさは重要ですし、価格も大切です。パッケージやブランドだって気にしていますし、食品自体の安全性や健康への影響は言葉にせずとも実際の優先度は相当に高いでしょう。ある食品を高品質だと感じる時、私たちは食品が持つ様々な側面を感覚的に捉えて総合的に判断しているものです。
では「質(たち)が悪い」食品とはどんな食品でしょうか。
それは例えば、味が悪い、値段と味が不相応、入手が難しい、やたらと高い、見た目に高級感が無い、保管期限が異常に短い、異物が混入している、健康への悪影響がある、そういった食品は「質(たち)が悪い」食品だと言えますし、継続的に購入しようとは思わないでしょう。
これがまさしく「品質」です。
品質とは性能だけに限らずもっと総合的に品物(サービス)が持っている性質の全てであり、そのどれかが基準を満たさないだけでも「質(たち)が悪い」と判定されるとても厳しいものです。
食品に限らず、他にも車であればどれだけ実際の性能に問題が無くても頻繁にリコールが生じて整備工場へ行かなければならないならば「質(たち)が悪い」ですし、衣服や家屋などで販売元企業が不祥事を起こして風評被害を被るようであればやはり「質(たち)が悪い」ものです。
昨今の品質不正問題について
昨今のコンプライアンス意識の向上によって世界中の様々な企業で品質問題が頻発しており、特に利益を目的とした設計評価の不正や検査不正が目立ちます。
そのような不正を起こした企業の一部は「実際の製品の品質には問題がない」と言った類の言い訳をします。
これは「品質」を正しく理解していない証拠です。
ここで言及されている品質は性能のみを指していますが、品質はもっと幅の広い概念です。実際には安全性への不安やブランド価値の毀損が生じている以上、たとえ性能に問題が無いとしても品質は間違いなく低下しています。ユーザーはそういった品質特性も込みでお金を払っているのであって、販売後に品質特性を低下させて価値を毀損することは顧客へ損害を与えていることと同義です。
このような言い訳は実に「質(たち)が悪い」と言えるでしょう。
結言
よく製造業で用いられるスローガンに「品質第一」があります。
それを実現するのであれば、まずはそもそも「品質」とは何かを深く理解する必要があると私は考えます。
何も日常会話で用いる「品質」にそこまでの厳密性や理解を求めるわけではありませんが、少なくとも品物(サービス)の質に関わる仕事をしている人であれば品質が意味するところの幅広さを重々理解しておく必要があります。