忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

あまり「あってはならないこと」とは言わないほうが・・・

 何か大きな問題や事件、災害や事故が起きた時、盛んに騒ぎ立てられるのが「あってはならないことが起きてしまった」といった言説です。

 その気持ちはとてもよく分かります。

 起こるべきでないことは世の中にたくさんありますし、それが起こってしまったことを悔やみ、誰かや何かを責めたくなるのは人情です。

 

 ただ、「あってはならないこと」をあまり強調してしまうと、それはそれで望ましくない結果をもたらすことがあります。

 

「あってはならないこと」ならば・・・

 「あってはならないことだ」とメディアや世論から攻撃された個人や組織は、その種の攻撃を避けるために不正のトライアングルで言うところの正当化を内面的に行使します。

 

 「あってはならないこと」ならば、それが無かったことにすればいいと考える。

 

 つまり、率直に言えば問題を隠蔽するようになります。まるで点数の悪い答案用紙を子どもが親から隠すように。誰だって攻撃はされたくないものであり、自己を保身するために攻撃を避けることは正しい行動だと本人の中で正当化が行われることは極めて自然な人間心理です。

 

 もちろん「あってはならないこと」は「あってはならないこと」であり、それを引き起こした主体は世間から批判されるべきです。それは疑いようのない事実ではありますが、ただ、無分別な批判は決して効果的ではありません

 

 なぜ無謬性の原則が生じるか。なぜ行政や官僚機構、政府や企業経営者は誤りを認められなくなるか。その原因は誤りを許されないという環境にあります。誤りに対して失脚や粛清といった制裁措置が降る場合、意思決定者はそのような事態を避けるために誤りを受け入れることを拒絶し、誤りが存在しないように振舞うのです。

 これは金属の加工硬化に近似した現象と言えます。意思決定者が誤りを犯した場合は下部組織の構成員や民衆から批判を受けますが、これが金属を叩くことに該当します。叩きが過剰で不適切であると組織は加工硬化を起こして硬くなると同時に曲がらなくなります。組織の硬直化、意思決定の硬直化、そして誤りを認めなくなる無謬性が生じるということです。

 もちろんだからといって行政や官僚機構、政府や企業経営者を批判するなと言うわけではありません。不適切な行いが批判をされるのは当然のことです。また人や組織を鍛えるためにも外部からの負荷は必須です。

 しかし無闇矢鱈に叩けばいいかと言えばそうではなく、人や組織が誤りを認めて修正したり大人しく降板できるよう、すなわち無謬性の原則に陥らないよう適切なロジックに基づいて批判が為されなければなりません。

 

人も組織も金属も、叩けば硬くなる~硬度と無謬性 - 忘れん坊の外部記憶域

 

 隠蔽の陥没に陥らないよう、「あってはならないこと」が起きた時の批判はただ叩くだけではない職人技が必要です。その点を考慮せずにただ闇雲に批判することはヒューマンファクターの観点からすれば悪手だと言えます。

 

例えるならば、任意保険に入らない車の運転

 異なる視点として、「あってはならない」に固執するといざそれが起こった時の備えができなくなることも問題として挙げられます。

 なにせ「あってはならない」のですから、それが起きないようにすることだけに注力する、そんな発想になります。

 その結果、代替計画や次善策、すなわちプランBを準備することを是とできません。

 

 例として、交通事故は「あってはならないこと」の一つです。

 もちろん私たちドライバーは交通事故が起きないよう細心の注意を払って運転をしているでしょうし、道交法を守り、車検をして車の安全性を維持しています。

 しかし任意保険に入っていなければ「あってはならないこと」である交通事故が生じてしまった場合、にっちもさっちもいかなくなってしまいます。それを誰しも理解しているからこそ、全国平均で90%の人が任意保険に加入しています。

 まさか任意保険に入っている人を「交通事故を起こすことを前提にしているのか」「交通事故はあってはならないことだ」と責める人はいないでしょう。「あってはならない」からこそそれに備えているだけです。

 

 「あってはならない」に固執して「あってはならないこと」をとにかく阻止しようとだけ考える人は、任意保険に入らないで車の運転をするようなものです。そのようなフォールトトレランスを考慮しない考え方では「あってはならないこと」が生じた際の被害を拡大しかねません。

 

結言

 人情的には難しいと思いますが、「あってはならない」に固執するのではなく、「あってはならないことだけども・・・」と冗長性を持った柔軟な発想に切り替えて未然防止事後対応の双方に手を打つことが危機管理としては適切です。