忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

他人に石を投げるべきではない

 このブログで度々取り上げていますが、大切なことは何度繰り返してもいいと思っていますので、2019年のオバマ大統領のスピーチについて再度取り上げましょう。

 

オバマ大統領のスピーチ

 オバマ大統領が2019年に行ったスピーチは昨今のコールアウト・カルチャーやキャンセルカルチャーへの批判として有名です。

 過去に抄訳した記事ではワシントンポストから一部を引用させてもらいましたが、今回はニューヨークタイムスを見てみましょう。

 

引用元:Obama on Call-Out Culture: ‘That’s Not Activism’ - The New York Times

“This idea of purity and you’re never compromised and you’re always politically ‘woke’ and all that stuff,” Mr. Obama said. “You should get over that quickly.”

「純粋であること、決して妥協しないこと、常に政治的に "覚醒(Woke) "していること。そういった考え方がありますが、それは早く乗り越えるべきです」

“The world is messy; there are ambiguities,” he continued. “People who do really good stuff have flaws. People who you are fighting may love their kids, and share certain things with you.”

「世界は複雑であり、曖昧な部分もあります。本当に素晴らしいことをする人にも欠点があります。あなた方が戦っている人々だって、自分の子供を愛していたり、あなたと共有していることを持っているかもしれません」

“I do get a sense sometimes now among certain young people, and this is accelerated by social media, there is this sense sometimes of: ‘The way of me making change is to be as judgmental as possible about other people,’” he said, “and that’s enough.”

“Like, if I tweet or hashtag about how you didn’t do something right or used the wrong verb,” he said, “then I can sit back and feel pretty good about myself, cause, ‘Man, you see how woke I was, I called you out.’”

「近頃、特定の若者の間で『変化を起こす方法とは他人に対してできるだけ批難的であることだ』とする風潮があるように私は時々感じます。そしてそれはソーシャルメディアの影響で加速されています。でも、それはもう充分でしょう」

「たとえば、もしツイートしたりハッシュタグをつけて誰かが何かを間違えり誤った表現を使ったことを批判すれば、その人は『オレがどれだけ正しいかを見たか?あいつを晒しあげてやったぜ!』と椅子に座って寛ぎながら良い気分になれるでしょう」

“That’s not activism. That’s not bringing about change,” he said. “If all you’re doing is casting stones, you’re probably not going to get that far. That’s easy to do.”

「それは行動主義(Activism)ではありません。それでは変化をもたらすことはできません。他人に石を投げるだけでは(他人を非難するだけでは)、世の中を変えるには程遠いでしょう

 

正しさを煮詰めた先

 過ちを犯した人に社会的制裁を加えたいと思う気持ちは誰しも持っています。そういった義憤や公憤は社会悪を低減するため社会に必要な要素です。

 しかし社会的制裁とは「法に基づかない制裁」すなわち私刑・私的制裁・魔女狩り・リンチ・イジメに類するものです。

 正しくあろうとすることは決して悪くありませんが、義憤や公憤に駆られて正しくない他者に石を投げることは間違えています

 社会悪が法で裁かれないのであれば法を変えるように働きかけるべきです。法に則らず私的制裁を加える行為は法治の否定に他なりません。

 

 また、法治を否定する問題以外にも、正しさを煮詰めていくと望ましくない結果をもたらします。

 決して妥協しない純粋な政治的正しさとは、教義(ドグマ)と同義です。

 つまり純粋な正しさを追求して他者の誤りをただ批難するだけの人々は必ず先鋭化したカルト集団に成り果てます。それは誰にとっても望ましくない結末でしょう。

 

結言

 社会をより良くするために活動する行動主義(Activism)は素晴らしいものです。世の中をより良く正しくしようとする行動や意思は賞賛されるべきものだと考えます。

 ただし、正しくない他人に石を投げる行動は行動主義ではありません

 それは世の中をより正しくすることに役立たないどころか、正しくない結末を招く行為です。