忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

アメリカの動きを理解するための、大統領と連邦議会に対する認識

 別にトランプを擁護したいわけではないけども、ただ、彼を絶対悪だとして石を投げ続けているだけでは見誤ることがある、そういう話をします。

 おそらく大して面白い話題ではありません。

 

過去から学ぶ

 2024年米大統領選挙の話題では猫も杓子もトランプを批判しておけばいいような空気があるものの、まあそれ自体はいつもの政治的プロパガンダ合戦の様相ですのでそこまでおかしなことではありません。

 もちろんトランプが各所から批判されるのは彼の言説が根本原因であり、つまりは自業自得ではあるのですが、とはいえ周囲の憶測が過剰になり過ぎてもいます。大口を叩いて注目を集めるのは彼の選挙戦略であり、それに引き摺られて現実が見えなくなっているのは彼の支持者だけではないようです。

 

 例えばトランプは人種差別主義者とよく批判されていますが、過去にも記事にしたように実際には有色人種に対する優遇政策が取られたことから米共和党への有色人種の投票比率は高まっています。トランプの言説と結果は必ずしもリンクしていません。

 特に顕著なのが黒人票の変化で、2008年(オバマVSマケイン)では4%、2012年(オバマVSロムニー)では6%だった黒人の米共和党投票率は、2016年(クリントンVSトランプ)では8%、2020年(バイデンVSトランプ)では12%まで上がっています。この10年で「黒人は米民主党に投票するのが常識」であった価値観が少し変化していることが分かるでしょう。

 

 また昨今のロシア・ウクライナ戦争に対する彼の発言から、「トランプが大統領になったら台湾有事においてアメリカは手を引くのではないか」といった憶測も観測されます。

 それは過去のトランプ政権時を見ればある程度予測がつくでしょう。

 トランプ政権は4年間でオバマ政権期のおおよそ倍の武器売却を承認していますし、高級官僚同士の訪問を促進するための台湾旅行法(Taiwan Travel Act)、台湾への防衛装備売却を促進するためのアジア再保証推進法(Asia Reassurance Initiative Act)、防衛品装備のみでなく国際機関への台湾の参加を提唱することまで明記した台湾保障法(Taiwan Assurance Act)などもトランプ政権期に署名・成立しています。

 彼の放言に反して、少なくとも当時のトランプ政権期においてアメリカと台湾の関係は大きく進展しました。

 

三権分立の基本

 ここで重要になるのは、これらが時の大統領の意向かと言えば必ずしもそうではないことです。

 アメリカと台湾の関係が具体的に深化し始めたのは中国の台頭が明確となったオバマ政権期からであり、その時からすでにアメリカ政府は台湾の民主主義や蔡英文総統の当選を歓迎していましたし、現在のバイデン政権期では上・下院議員が台湾へ積極的に訪問したりハリス副大統領が直々に台湾との交流を実施しています。

 つまり、中国の膨張を抑止するために台湾へ接近しているのは大統領の個人的な意向ではなくアメリカの国家的な選択であり、それを主導しているのは大統領ではなく連邦議会です

 

 三権分立の基本として、大雑把に言えば国家の方向性を定めるのが立法府それをどうやってやるかを定めるのが行政府です。法治国家は当然ながら法に基づいて物事が動きます。政府は法に基づいて行政権を行使するのみであり、政府の意向は法を上回りません。

 つまりアメリカという国家がどのような方向性を持つかは大統領ではなく議会によって決まります。だからこそオバマ・トランプ・バイデンと次から次へと方向性の違う大統領が表れてもアメリカと台湾の関係深化は一貫して進められてきました。

 大統領は大きなビジョンを語りますが、立法府によって阻止されることも多々あります。メキシコとの国境に壁を建設する予算をロクに得られなかったトランプや、切に実現を求めていたビルド・バック・ベター法案が頓挫したバイデンを見れば分かるように、米大統領は決して絶対的な権力者ではありません。

 

結言

 大統領は目立つ存在ではありますが、実際にアメリカを動かしているのは連邦議会であり、つまるところアメリカの方向性を見るのであれば大統領ではなく議会に着目することが正解です

 

 

余談

 ただ、外交に関しては行政府の権限が強いため、外交に関してであれば大統領に着目したほうがよいでしょう。