ジェンダーギャップ指数(GGI)に関しては過去の記事で取り上げましたが、今回は国連開発計画(UNDP)が作成しているジェンダー不平等指数(GII)について見てみましょう。
Gender Inequality Index (GII) | Human Development Reports
ジェンダー不平等指数(GII)とは
世界経済フォーラム(WEF)が発表するジェンダーギャップ指数(GGI)は多くのメディアが取り上げるのに、こちらのジェンダー不平等指数はほとんどメディアに登場することがありません。メディアの中の人ではないので具体的な理由は分かりませんが話題性が少なくニュースバリューが低いからでしょうか。
ジェンダー不平等指数は162の国・地域を対象としてそれぞれの政府や国際機関が公表しているデータから指標を計算しています。この指標はリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)、エンパワーメント(能力開花・権限付与)、労働市場への参加の3つの側面における達成度の男女不平等を映し出す指標です。完全平等を0として、男女の一方が他方より不利な状況に置かれている場合を0~1までの数値で表しています。
ジェンダー不平等指数は国連の人間開発指数から派生したものです。人間開発とは「人々が各自の可能性を十全に開花させ、それぞれの必要と関心に応じて生産的かつ創造的な人生を開拓できるような環境を創出すること」と定義されています。
ジェンダー不平等指数の世界平均値は2019年の時点で0.436です。この数値は3つの側面の達成度、人間開発がジェンダーの不平等によって43.6%損なわれているという意味になります。
日本のジェンダー不平等指数
日本は2019年の公表結果において、24/162位です。ジェンダーギャップ指数の120/156位に比べれば比較的上位に位置しているといえるでしょう。計算方法や元としているデータが違うことも大いに差異の理由ではありますが、これらの指標はまず見ている側面が違います。
ジェンダーギャップ指数は「どれだけ女性が不利益を被っているか」を表す指標です。対してジェンダー不平等指数は「男女の格差がどれだけ人間開発を損なっているか」を表す指標です。
現実にはあり得ない例え話となりますが、男性が高等学校に進学することを法律で禁止したとしましょう。男性には皆中卒で低賃金労働に就いてもらい、高学歴の女性が高所得な仕事を独占するような法律です。この場合、人間開発に支障をきたすことからジェンダー不平等指数は当然ながら悪化しますが、ジェンダーギャップ指数は反対に改善します。ジェンダーギャップ指数が「女性の地位を向上させる」こと以外にも「男性の地位を下降」させることでも数値が良くなる指標だからです。
どちらが良い悪い・正確不正確という話ではなく、見ている面が違うということです。ただし指標の意味を理解して使い分ける必要はあります。
日本の内訳
リプロダクティブ・ヘルスは妊産婦死亡率と低年齢での出生率から算出されています。どちらの数値も日本は上位に位置しており、特に文化的経済的な観点からか低年齢での出生率が他国と比べても低い値を示しています。少子高齢化や晩婚化の影響は大きいでしょうが日本よりもこの数値が優れた国は数か国しかありません。
エンパワーメントは国会議員の女性比率と最低限の中等教育(中学校・高等学校)を受けた人口比によって算出されています。国会議員の女性比率において日本は先進諸国と比べて大変に低い数値を示しています。世界平均は24.6%であり、日本は14.5%です。国会議員の女性比率についてはジェンダーギャップ指数の記事でも書いたのでそちらを参照ください。
日本では女子のほうが高校進学率が高いため、中等教育を受けた人口比については逆に男性側がディスエンパワーメントされている扱いとなります。完全に同一比とするのは難しいですので改善は困難でしょう。ただしフィンランドのように高校まで義務化してしまえば男女とも100%になって不平等は無くなります。
労働市場への参加は各国とも男性の方が高い参加率を示しています。日本も男女ともに数値上は他国とそこまで変わらない参加率です。但しジェンダー不平等指数では賃金格差を計算に入れていません。正社員でもパートでも同じ扱いです。「労働市場に参加できる」ということで人間開発の環境は整っているという判断になるのでしょうが、この点についてはジェンダーギャップ指数のほうが実感的なギャップを比較しやすい計算になっています。
結論
162の国・地域のうち24位というのはそこまで悪くない順位だと思います。内訳としても妥当な評価です。ジェンダーギャップ指数が156国中120位であることのほうがニュースとして取り上げやすいのは分かるのですが、悪い点ばかりあげつらうのはあまり好みではありません。それぞれの指標を比較し、中身を理解し、具体的にどう改善すべきなのか。そういったことを考えたほうが良いでしょう。
ちなみに両指標の順位を上げるには「国会議員の女性比率を高める」ことが明確かつ最短の方法です。ですがジェンダーギャップ指数の過去記事でも書いたように日本の国会議員選挙では男女で当選率に差が無いことから、女性の出馬率が低いことが課題です。
そして国会議員の女性比率を高めることが本当に女性の幸せにつながるのかということはもう少し考えたほうが良いと私は思います。メディアやSNSでめちゃくちゃ叩かれますよ、国会議員の人々は。あの仕事は楽しくなさそうだから禿げたおじさんにやらせておいて、華やかで楽しくやりたい仕事をしたほうが幸せな気がします・・・いや、もちろん国会議員になりたい女性の障壁になるような課題は解決すべきですが。