忘れん坊の外部記憶域

主に時事やビジネス、政治経済や興味を持ったことについて書き散らしています。

文化マップの見方と日本の位置~世界価値観調査を見る

 過去の記事でも少し取り上げた世界価値観調査について今回は触れてみます。

世界価値観調査とは

  世界価値観調査(World Values Survey)は人々の社会文化的、経済的、政治的、宗教的な価値観を調査するために世界中の社会学者によって行われている国際プロジェクトの一つです。面接でのアンケート方式を世界中で行い、5年間隔でデータをまとめて発表しています。

 調査結果の内容は膨大なため、今回は世界価値観調査の中でも代表的な文化マップについて取り上げてみます。

イングルハートーヴェルツェルの文化マップ

 イングルハートーヴェルツェルの文化マップ(Inglehart - Welzel's Cultural Map)とは、政治学者のInglehartとWelzelが世界価値観調査の結果を元に考案したマップです。縦軸は伝統と世俗的合理性のどちらに重きを置いているか、横軸は生存と自己表現のどちらに重きを置いているかを示しています。

 最新のマップは以下の通りです。

f:id:external-storage-area:20210818132028p:plain

 日本は儒教(Confucian)のグループに所属しており、マップ上ではおよそ右上に位置しています。伝統的価値よりも世俗的合理的価値、生存価値よりも自己表現価値のほうが強いという評価です。特に世俗的合理的価値については世界で一番伝統的価値よりも世俗的合理的価値を重んじているという評価であり、分かるような気もしますが少し驚きの結果です。

 なぜそのような評価をされているのか、具体的にインジケータの内訳を見てみましょう。

伝統的価値VS世俗的合理的価値

 インジケータはアンケート結果から次の5つの因子を分析して数値化されています。

  • 回答者の人生において、神は非常に重要であるか
  • 子どもは自主性や決断力よりも従順さや信仰心を身に付けることの方が重要だと思うか
  • 妊娠中絶は決して正当化されないと考えるか
  • 回答者は国に対して強い誇りを持っているか
  • 回答者は権力・権威をもっと尊重したいと考えているか

  Webサイトのデータ量が多く日本が個別に何点だったかのデータを見つけることができませんでした。どなたかご存知でしたらご教示願います。

 項目の内訳を見ると分かるように、この項目は宗教が重視されている社会かどうかを特に色濃く反映しています。次いで国家に対する誇りや敬意です。これらの項目に強く賛同する社会は伝統的価値であり、その反対は世俗的合理的価値とされています。因子を見る限り、確かに日本はこの基準での伝統的とは言えない文化を持っているでしょう。

 この手の国際調査で常に注意しなければいけないのは分析者の価値基準です。キリスト教国家やイスラム国家における神(God)と仏教国での神はそもそも非なるものであり、神道と仏教が主流派である日本人に神は重要であるかと聞かれても多くはNoと答えるでしょう。だからといって日本人が非伝統的であるかは別の話です。

 日本では古くからの祖霊信仰が伝統的に根強く息づいています。8月に書いている記事ですので直近の事例でいえば、祖霊を祭る行事であるお盆(盂蘭盆会)、これは仏教の盂蘭盆経を元としたものであり、日本では7世紀くらいから続けられてきた立派な仏教行事です。他にも日本には時に面倒に思うくらい伝統的なものが様々残っていることは皆様もご存じだと思います。よってこの調査結果から日本は伝統的ではない、とは必ずしも言えないと私は思います。

 個々人の意識は世俗的合理的な価値観を持ちつつも伝統的価値観を残した言動を取る、その二律背反に近い並立の文化が日本の良さだと私は思っています。ようは自由だということです。

生存価値VS自己表現価値

 インジケータはアンケート結果から次の5つの因子を分析して数値化されています。

  • 回答者は、自己表現や生活の質よりも、経済的・物理的な安全性を優先している
  • 回答者は自分のことを「あまり幸せではない」と答えている
  • 同性愛は決して正義ではない
  • 請願(署名)をしたことはないし、今後もしないと思う
  • 人を信じることには慎重にならなければならない

 これらの項目に強く賛同する社会は生存価値が優位であり、その反対は自己表現価値が優位とされています。生存VS自己表現というと大仰に聞こえるかもしれませんが、ベースとしては国家の経済的な事情を多分に含んでいます。すなわち、経済的な余裕のある先進国であれば寛容や他者への信頼、主観的な幸福や市民活動といった自己表現に属する活動に邁進することができ、経済的な余裕が無ければそれができないということを意味する指標です。

 日本は中央右寄りで概ねアメリカと同等です。欧州の国々ほどではないですが先進国の位置だといえるでしょう。基本的には右寄りのほうが余裕がある望ましい社会だと考えられますが、幸福の感じ方や他者への信頼のように因子にはそれぞれの文化的なものも含まれることから、日本が今後さらに右に寄っていくとは必ずしも言えません。

感想

 文化マップは大変に面白い試みですし図化されて分かりやすくはありますが、やはり国家を2軸で分類するのには難しさを感じますね。

余談 

 世界価値観調査のWebサイトでは過去の文化マップも載っています。ただ日本の位置はあまり変わっていないため、あまり面白い示唆はありません。

 参考程度として第6回調査の文化マップを貼り付けておきます。(最新は第7回)

f:id:external-storage-area:20210818132103p:plain