忘れん坊の外部記憶域

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ポピュリストの政治家を攻撃する危険

 民主主義における政治家は大きく分けて2種類います。エリート主義(エリーティズム)と大衆主義(ポピュリズム)です。

 ポピュリズムは大衆迎合主義とも呼ばれ、一般的にあまり好意的には使われない言葉です。どちらかというと人気取りを得意とする政敵を攻撃する際に用いられます。そのためポピュリズムは衆愚政治とも訳されることがあります。

各国の代表的な政治情勢

 エリーティズムとポピュリズムは国家の経済状況にも影響を受けます。大雑把で主観的な分類ではありますが、現状ではドイツはエリーティズムが強く、イギリスはポピュリズムが強い政治環境です。アメリカはややこしくなっており、日本は評価が難しいところです。

 ドイツでは元々首相の在職期間は比較的短くポピュリズム寄りでしたが、現在は優れた指導者を軸として長期政権を取るエリーティズムが強くなっています。2005年から在職しているメルケル首相が分かりやすい例でしょう。経済的に成功していればそれを変える必要は無いと国民が考えるためです。

イギリスは反対にサッチャーを代表とするエリーティズムが強かったのですが、経済的な衰退に比例して民衆の声が高まったことからポピュリズム寄りになっています。Brexitなどは特に分かりやすい事例で、長期的な目線で見ればEU離脱はリスクが高いのですが目先の仕事を失っている労働者の声が過半数を占めていたことから離脱が決行されることとなりました。

 アメリカは元々民主党がエリーティズム、共和党がポピュリズムでしたが、現在ではどちらも大企業に寄ったエリーティズム政党となっています。しかし双方からサンダースやトランプのようなポピュリズム政治家も出てきており、どちらかというと政党よりも政治家個々人によって分かたれている状態です。アメリカでは党議拘束のような制限が緩くそれぞれの政治家が法案ごとに是々非々で交差投票を行うため、日本人の感覚でアメリカの政党を見ると実態が掴めないかと思います。

 日本は評価が難しいところです。基本としては自民党が常に政権に居て、情勢に応じてエリーティズムとポピュリズムを行き来しています。野党は基本的にはポピュリズム政党です。しかし日本はドイツに似た官僚国家であるため、表に出てくる政治家がどちらであろうともベースは官僚によるエリーティズムと言えるかもしれません。

ポピュリズムは基本的に蔑称だが・・・

 最初に述べたようにポピュリズムは政敵を攻撃する際に使われることが多い言葉です。「あいつは国民の人気取りが上手いだけで実力の伴わない政治家だ」「現実的ではない大衆迎合主義だ」というような形です。

 確かに現実的な手段を伴わずに大衆の人気取りを狙っているだけの政治家はいます。やるといってやらない政治家や財源の裏付け無くばらまきを示唆する政治家、国民の顔色を窺って言動が右往左往する政治家など、何人でも思い起こすことができるでしょう。

 しかしながら政敵を大衆迎合主義・ポピュリストだと批判することは一定のリスクを伴います。民主主義とは民衆が権力者を決める政治体制であり、大衆の支持を否定することは全体主義や独裁主義に向かってしまうことだからです。相手をポピュリストと非難することは下手をすると民主主義の否定に繋がってしまいます。

最後に

 もちろんだからといってポピュリズムが常に民主主義にとって正解なわけではありません。民衆が常に最適な選択肢を選べるわけではないのですから。

 民主主義の最大の利点は「誤った選択をしても後にその修正ができる」ことです。これは独裁政治や専制政治ではできないことです。しかし致命的な誤りというものもあるためそれだけは避けなければいけません。例えば戦争です、これは誤っていた場合修正し切れるものではありません。

 よって優れた民主主義には以下の特徴が必要です。

  • 複数の選択肢があり、民衆の選択が反映されるようになっている
  • 選択肢毎の良い面と悪い面をメディアが公平に開示している
  • 民衆が判断するための適切な教育が行われている

 ・・・まあ、言うのは簡単なのですが、難しいところです。実現し切れているかといえば日本に限らずどこの国でもそうとは言えないでしょう。情報社会の発展による情報の双方向化、グローバル化の進展によるナショナリズムやトライバリズムの顕著化、今後民主主義を上回る素晴らしい政治体制が登場するかもしれませんが、民主主義を妄信する一市民の個人的な感想としては現状の政治環境はあまり宜しくないと思わざるを得ません。エリートたる専門家の意見を聞き、ポプルスたる市民が決定する。そのバランスが大切なのですが、様々な要因によって常に揺れ動く天秤の傾きを調整するには不断の努力が必要なことをまずは周知しなければいけないでしょう。