忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

三酔鳥自由問答

 やあ、鳥さん。君の住まいはこの大空と言ってもいいだろうね。住み心地はどうだい?

 やあ、こんにちは!

 この空の住み心地かい?もちろん最高の気分さ!何にも縛られない大空、どこまでも続く蒼天、この広い空を風を切って飛び回るのは凄く気分が良いよ。それに上から眺める景色はとても美しいものなんだ。遥か先まで続く広大な草原、まるで生きているかのようにうねりを見せる蒼海、山々の陰にひっそりと隠れて一日の仕事を終える夕日、君にもこの高さから見える風景を見せてあげたいくらいさ。

 食べ物だって食べたいだけ好きに獲ればいいし、気の向くままどこに行くのだって自由さ。好きな時に休み、好きな時に飛ぶ。この大空を気ままに飛んでいる時こそ僕たち鳥がこの世で一番自由な生き物だって実感できるよ。この自由を手放すことなんて想像したくもないね。

 

 やあ、そちらの鳥さん。住み心地はどうだい?

 おぅ、こんにちは。

 なに、そこまで良いもんじゃないさ。曇天の日は気が滅入るし、雨の日は水が纏わりつくから飛び続けるのは結構疲れるんだぜ。晴れた日はそりゃいいが、天気が悪けりゃ景色なんて見えないしな。

 腹が空いたら食べ物を探し回らないといけないし、必ず見つかるって保証も無い。空腹を抱えたまま血眼になって獲物を探すってのは、まあそう楽しい気分じゃあないさ。

 好きなだけ休めりゃいいが、他の奴ら、ほら、猫とか人間とかだよ。あいつらの爪や武器が届く範囲じゃおちおち休んでもいられない。もっと落ち着いて安心できる場所が欲しいってもんだ。だから人間の住処にいる籠の中の鳥が羨ましいと思う時もあるさ。実際飼われたいかって聞かれても答えに窮するけどさ。

 

 やあ、こちらの鳥さん。住み心地はどうだい?

 ああ、こんにちは。

 住み心地かい?まあ、鳥それぞれじゃないかな。晴れた日が好きな鳥もいれば雨の日が好きな鳥だっているように、良い日もあれば悪い日もある。それはお天道様次第さ。

 景色も同じじゃないかな、何を綺麗と思うかは個々の鳥次第だよ。僕は雨脚が弱まった時、雲間から差し込む光に照らされている人の街並みが好きだな。あとは晴れ渡った青空や雨粒の滴った森林だって好きさ。でも僕が好きな景色を君が気に入るとも限らないよ、同じように感動してくれるならそれは嬉しいことだけど。

 確かに僕たちは天敵の少ないこの空を自由に飛び回ることができる。でも誰かが餌を持ってきてくれるわけでもないし、餌を探すときに天敵に出くわすこともあるから決して楽なわけじゃない。だから大変なこともあるけど、そういった自由気ままなことが好きな鳥もいれば、それよりも安心を欲している鳥だっている。どっちがいいかなんて鳥それぞれだよね。

 あっちの鳥が言うように自由は大切だと僕も思うよ。でもこっちの鳥を否定するようなことも言いたくはないかな。安心できる場所ってのは自由と同じくらい尊いと思うからね。誰だって自由気ままでありたいし、そして傷つきたくないものさ。だから良いとか悪いとかじゃなくて好きなほうを選べばいいと思うよ。日々の自由や日々の安息よりも、そのどちらかを好きに選べる自由こそが一番価値のある自由じゃないかな。

 そもそも僕は鳥だから、良いとか悪いとかはあんまり気にしないかな。土の中で暮らしたいと思ったって僕はモグラにはなれないし、電線じゃなくてクルマに乗りたいと思ったって僕は人じゃない。もちろん飛びにくいビル群を避けたり手軽に食べ物が手に入る良い餌場を探したりはするけど、日々考えることはそのくらいだよ。晴れた日は気分良く空を飛び回り、雨の日は静かに羽を休める。僕は僕が住めるところに住んで、できることをするだけさ。