忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

人件費が気になるなら教育をすればいいのに

 学術的根拠があるわけではない、ただの技術屋のたわ言。

 

雇用の調整弁という風習の打開

 労働者の賃金が上がらないことや非正規雇用が増加しているという社会問題があります。それらは多くの場合労働集約型産業における課題です。

 景気変動の影響を大きく受けたり需要に波があって必要な労働力が変動する労働集約型産業では、最大需要時に合わせて労働力を抱え込んでいると需要減少時に労働力の遊びが大きくなり非効率的であることから、経営者にとって『人件費を抑制すること』と『正規雇用の人数を増やさないこと』には経営的なインセンティブが働くことが原因の一つだと考えます。

 ただし、これを善悪の問題として語ることは少し危険です。正規雇用数を増やし、仕事が無い時でも雇用を維持して飯を食わせることが善となると、企業は適正な収益を上げることが出来ずに倒産する危険性が高まってしまいます。大勢を路頭に迷わせるリスクを取ることを善とするのはモラルハザードを招きかねません。

 もちろん非正規雇用の労働者を使い捨てるように扱うことが正しいことだとはまったく思いません。しかしそれは善悪を規範とすることでは解決できないでしょう。善悪ではどうしてもズルをする悪人が得をすることになりかねません。

 そうではなく、もっと合理性の観点、すなわち労働者を使い捨てないことが合理的に考えて望ましいというインセンティブを設計することによって成し得るべきだと考えます。

 

 では日本的な就業システムではなく欧米的な方法、すなわちジョブ型雇用に転換すればいいかと言えばそれもまた難しいかもしれません。

 確かにジョブ型雇用が一般的となり転職市場が活発になれば労働力の調整は容易になります。それを妨げているのは日本の新卒一括採用という風習です。

 しかしジョブ型雇用には学校を卒業した時点での技能である程度人生が定まるという格差固定化の側面があり、それが欧米での上流と下流の階級格差を生み出しています。対して日本の新卒一括採用はチャンスが少ないという欠点を持つものの、新卒カードを持っていればその時点の能力が不足していても上流側に属せる機会があります。欧米のスキル格差と学歴フィルターに比べれば新卒カードは比較的温和な機会の平等を与えているわけです。

 新卒一括採用は悪しきものとされがちですし実際に悪い部分は多々ありますが、これはある種の格差緩和装置として働いている面もあり、単純に全て廃止すればいいというものではないと考えます。

 とはいえ、この新卒一括採用が転職市場を停滞させ労働力の固定化に一役買っていることも事実であり、労働力の固定化は人件費抑制のために正規雇用を増やさないことのインセンティブとして働いてしまっているのが実情です。

 

人を育てればいいのでは?

 人を増やさず、人件費を増やさず、それでいて労働力のバッファを確保するにはどうするか。

 浅学菲才な工学屋の浅はかな思索ですが、単純に人を育てればいいのではないでしょうか?「人財こそが企業の宝だ」なんておためごかしの表現を用いるまでもなく、労働集約型産業は人こそが収益の源泉なのですから、そこに教育資源を投資して効率を上げることは大変に効果的だと考えます。

 とても単純に考えて、良いサービスが提供できるようになったり生産リードタイムが短縮されたりと、労働者の能力が伸びればその分売上にもつながりやすくなります。人件費は据え置きで売上が伸びるのであれば、それは利益が伸びるということです。もちろん設備の能力や教育費用、市場や教育効果の限界など様々な制約要因はありますが、他産業よりも人件費の比率が高い労働集約型産業にとって人材の教育に対する費用対効果は極めて大きいはずです。

 もし直接売上が伸びなかったとしても損にはなりません。例えば労働者の能力が1.1倍になったとして、それは今までの91%の人件費で今まで通りの売上が達成できるようになったということと同義ですから、浮いた9%分は労働力のバッファとして確保できます。繁忙期に追加で人件費を払う必要が無くなるので、やはり利益が向上する方向です。

 成長の度合いがもっともっと高くなれば確保できるバッファや見込める利益は同様にもっともっと高くなります。そう考えると非正規雇用で雇って使い捨てるのは単純に考えて無駄どころか大きな機会損失だと思うのですが、いかがでしょう?ちゃんと雇ってしっかり育てた方がお得では?

 

現場の意見

 まあ経営者には経営者の考えがあることは分かりますし、そう上手く事が進むわけはないということも分かります。これは根拠のない浅はかな思索です。

 ただ現場側の意見として、コロコロ人を入れ替えられると一人前になるまでに膨大な教育コストが掛かるため、大変に無駄です。また一時的にでも人が増えればそれだけコミュニケーションパスが増えて業務が非効率になっていきます。それよりはちゃんと正規雇用で雇ってしっかりと戦力化し、通常は余力を残して仕事を回し、繁忙期にはそのバッファを使って処理する。その方が合理的だと思う次第です。

 また、言ってはなんですが現代のグローバルな競争社会で『誰でも出来る仕事』では競合他社に勝てないと思うのです。否応なしに『他社には出来ないこと』をしないといけないわけで。そのためには人より100倍・1000倍優れたスーパー人材を雇うのも手ではありますが、そんなスーパー人材に頼り切るのは事業リスクが高いでしょう。

 それよりも普通の従業者を教育によってちょっと底上げするだけならば、持続性がありますし、属人性のリスクは低いですし、育てた人数次第で簡単にスーパー人材1人分以上になるでしょうし、と大変に合理的だと思うのです。

 何故か教育を軽視している経営者の方々には、一度教育の価値を見直していただけますと幸甚至極にございます。