忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

なぜ与党を攻撃する野党の支持率が伸びないのか

 別に国政に限らず、何らかの意見対立や多数決において普遍的で、特に新しい発想でもなく、むしろ面白くもない普通の話をしましょう。つまり政党政治における支持率は一例に過ぎませんが、まあ例として説明しやすいので使います。

 

戦略を間違えている

 例えば次のような政党があるとします。政党の数や支持率は適当で、要は支持率の高い与党と支持率の低い野党があるという状態です。

政党A(与党):支持率60%

政党B:支持率20%

政党C:支持率15%

政党D:支持率5%

 この場合に政党B~Dが取りがちな戦略は、政党Aを攻撃して支持率を落とそうとする戦略です。政党Aを攻撃してその悪いところを炙り出すことで政党Aに投票する人が減れば、相対的に政党B〜Dの支持率が伸びるような気がしますし、もしかしたら政党Aに投票していた人が政党B~Dに投票するようになるかもしれません。だから政党Aをとにかく攻撃しまくる戦略は正しいような気がします。

 しかし政党Aに投票している人のことを考えると話はそう単純ではありません。政党Aに投票している人をものすごく大雑把に分けると2種類います。

政党Aが好きだから政党Aに投票している人(積極的支持)

政党B〜Dが嫌いだから政党Aに投票している人(消極的支持)

 政党B~Dが政党Aを攻撃した場合に政党Aへ投票している人がどう行動するかを考えてみると、まず積極的支持の人たちは今までよりも強く団結して反発することでしょう。なにせ自分たちが積極的に支持するほど好きな政党が攻撃されているわけですから、守らないといけないという気持ちからより強固な岩盤支持層になるわけです。

 そして消極的支持の人たちはどうなるかというと、政党Aではなく政党B~Dに投票するようになる、ということにはならないでしょう。だって政党B~Dが嫌いだから政党Aに投票しているのですから。

 この消極的支持というのは少し軽く見られている気がします。消極的支持者は頑強な支持層ではないから票を切り崩して奪えるんだ、というような誤解です。

 しかし、好きでもなんでもないけど仕方がないから政党Aに投票するというような消極的支持者は、政党B~Dに投票したくないから仕方なく政党Aに投票している、言うなれば政党B~Dの積極的不支持者です。それこそもし政党Aを攻撃によって打ち倒し滅ぼしたとしても、彼らが代わりに投票する先は嫌いな政党B~Dではなく、政党Aと同じような政策を打ち出している政党A'とか、まったく別の政党Eとかでしょう。

 つまるところ、政党Aを倒すために攻撃するという戦略は、政党Aの弱体化は狙えるかもしれませんが、攻撃主体である政党B~Dの支持率を伸ばすことには資さないものです。

 

どういう戦略を取るべきか

 とはいえ狙いとして消極的支持者をターゲットにする戦略は間違いないでしょう。少なくとも積極的支持者の層を崩すよりは容易なはずです。

 ここは見方を変えて、消極的支持者の層が政党Aに靡いていることが問題ではなく、政党B~Dがその層から嫌われていることを問題としなければいけません。よって政党B~Dが取るべきは消極的支持者を政党Aから切り離す戦略ではなく、彼らが政党B~Dを好いてくれるように仕向ける戦略です。

 つまり北風ではなく太陽こそが取るべき戦略です。実際に現実政治で伸張する政党というのは、与党を徹底的に攻撃するのではなく、私たちは与党よりもっと良い政治ができる素晴らしい案を持っているんだ、だから私たちに任せてくれ、というナラティブを提供することに成功している政党です。そのナラティブの中身自体にはもちろん人それぞれ賛否両論あるでしょうが、いずれにしても「あっちに行くな」という戦略ではなく「こっちに来い」という戦略を取る政党こそが長い目で見て支持者を増やすことができます。

 これは政党や国政に限らず、何らかの意見が対立して多数決を取る時などには有益な考え方だと思います。敵を倒すよりも味方を増やすことに終始したほうが良い結果をもたらしやすいものです。

 いえ、まあ、ナラティブにも限度はありますけどね。あまりにもぶっ飛んだ物語を語り過ぎると好かれるどころか嫌われてしまい、積極的不支持になってしまいますので。

 

 

余談

 つまり、恋敵の悪口を言いふらすのではなく、恋する人に振り向いてもらえるよう努力することが必要だという当たり前のことです。たとえ恋する人が恋敵を見なくなったとしても、こちらを見てくれるかどうかは別の話なのですから。少女漫画の悪役みたいな行動は、まあ、上手くいきません。