忘れん坊の外部記憶域

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組織票が陰謀論化していないか?

 選挙の度に話題となるのが組織票です。

 組織票とは特定の政党や候補者に対して、その関係者が組織的に投票する票を指します。

 ある候補者の家族や親族がその候補者に投票するのも組織票と同様の行為ではありますが、業界・利益・宗教・民族・人種などによって構成された組織規模がある程度大きい各種団体によるものが一般的に組織票と呼ばれます

 

組織票の功罪

 組織票というとなんだか悪いもののように聞こえるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。

 選挙というものが代表者を決定するためのものである以上、団体の規模によって影響度合いは様々あれど、組織票自体は全ての政党・団体が行っています。たとえどれだけ小さな政党であろうと、その政党を支持する組織団体が立候補者を国政の場に送ろうと投票行動を取ることは立派な組織票です。

 また、政治とは各所の利害を話し合いによって調整することであり、団体が利益代表を定めて団体全体で推すのは政治的に当然の行動です。

 よって組織票を無くすことは原理上不可能と言えます。

 

 もちろんだからといって組織票が必ずしも許容され得るクリーンなものということでもありません。

 人々の意見や利害は景気や国際環境、事件や事故など状況によって変化します。

 しかし大規模な組織による固定票が確立している場合、その固定票によって選出される代表者はそういった外部環境の変化に影響を受けなくなるため、市井の声の変化が反映されにくくなってしまいます。

 また極端な話、特定の組織が過半数を占めるような状況では各所の利害調整という政治の目的を果たせなくなります

 よって、少なくとも組織票の規模は過半を占めない程度が望ましいでしょう。

 

 以上より、組織票自体は一般的なものではありますが、その規模が大きい場合は害悪になり得ると言えます。

 

実際の規模は分からない

 上述したように組織票を考えた場合、重要になるのが実際の組織票の規模です。具体的に組織票がどの程度を占めているか無しに組織票の善悪を語ることはできません。

 

 但し組織票は判定が難しく、具体的な数値が測定されていないことが問題となります。例として令和元年の参院選挙における組織票に言及した以下の産経の記事でも、実際の得票数と支持母体は記述されていますが得票数のどの程度が組織票として投票されたかは不明です

 

 上記事から例として、自民党の柘植芳文参院議員を見てみましょう。

 柘植議員は比例代表での得票数約60万票でのトップ当選です。支持母体は自身が会長職をしていた全国郵便局長会で、この組織は選挙で何かと話題になる組織の中でも特に有名な集票組織と言えます。

 全国郵便局長会は会員数約2万人程度の組織ですが、地方会や地区会に分割している組織構成、郵便局長という立場、郵便局長婦人会のような関連政治団体の動員といった、組織票を強固に固める組織力を持った組織です。

 しかし、「一人30票」というノルマが課されるとも噂されている全国郵便局長会ですが、以下の記事にあるように人口の多い東京ですら1万4千票に満たないということで、その組織力と集票力の低下を指摘されています。

 よって柘植議員が組織票を背景に持っていることはまず事実ですが、当選が組織票のおかげかどうかは不透明としか言えません。

 

 この傾向は他の組織票・支持母体でも同様のことが言えます。

 立憲民主党の最大支持母体である自治労は会員数約70万人ですが、自治労を支持母体としている議員の得票数を見るに全員が支持政党へ投票しているわけではありません。同様に、会員数100万人を超えるUAゼンセンを支持母体として持つ国民民主党も同様です。

 そしてこのように大きな組織ですら、有効投票数約5千万に比べれば比率としては小さいものとなります。

 

実態が不透明なままでは陰謀論になってしまう

 そもそも組織や知人に頼まれたからとして、実際に言われた通りの投票行動を取る人が必ずしもいないという現実から考えて、組織が内部で語る獲得票数に対して実際の獲得票数は必ず下回るものです。

 また、郵便局に所属していても自民党以外に投票する人もいるでしょうし、自治労に所属していても立憲民主党以外に投票する人もいるでしょう。その反対も然りです。

 

 どういった投票行動が組織票と言えるかに関する定義が無い以上、組織票の規模を確定することは不可能です。

 よって、「あの政治家は組織票によって当選した」「この政党の組織票は悪である」といったような、具体的な実態が分からないままに何らかの組織が背後で大きな影響を与えているのだという決め付けは、厳しい表現を用いるならば陰謀論の類に近似するものです。

 組織票を問題とするのであれば、まずはその定義の策定と実態の把握から議論を始めるべきだと考えます。

 

それはさておき、組織票は薄いほうがいい

 ここまで組織票の曖昧さについて述べてきましたが、組織票の具体的規模はさておき、投票率が高くなって組織票の票数が薄まるほうが市井の声を政治が反映しやすくなりますので、何はともあれ投票率は高い方がいいでしょう。

 つまり、組織票の規模が不透明である以上、陰謀論的に「組織票という巨悪」を用意する必要は無く、ただ組織票の影響度合いを弱めるために投票に行きましょうと訴えかけるだけで充分だと、そう考えます。