働きアリの法則に関する言及を月に1回くらいの頻度で見かける気がするので、私もちょっと働きアリの法則に関することを述べてみます。
法則の概要
働きアリの法則は大雑把に言えば「よく働くアリとそこまで働かないアリが存在する」という法則です。パレートの法則(80:20の法則)と一緒に用いられることが多いため、80:20の法則や2:6:2の法則とも呼ばれています。パレートの法則の誤用と同様に比率は経験則的なものに過ぎないことから、比率自体には大した意味はありません。
働きアリの法則で重要なのは個体毎に反応閾値の差異が存在するという点です。同じコロニーの個体でも個々に閾値が異なり、それが集団の維持に役立っています。
反応閾値とは簡単に言えば仕事への感度です。法則を発見した長谷川先生は分かりやすく「腰の重さ」と表現しています。
部屋の掃除を例にすると、少し部屋が汚くなったらすぐに掃除をしたくなる人と、少しくらい部屋が汚くなってから掃除する人、そして部屋が汚くてもまったく気にしない剛の人もいます。このような、どこまで許容できるか、どの程度になったら行動を起こすかという感度の差を反応閾値と言い、反応閾値が低いほど早く行動を開始します。
反応閾値に個体差があることの意味をアリの巣の事例で考えてみましょう。
例えば卵を清潔に保つため磨く仕事。時間が経つにつれて徐々に汚れていってしまう卵を清潔に維持管理することはアリのコロニーにとって重要な仕事です。
最初のうちは卵が少し汚れただけですぐさま反応閾値が低い個体が掃除に駆け付けます。これがよく働くアリです。
しかし、しばらくすると一仕事終えて疲れたアリは休憩に入るため、その間に卵は徐々に汚れていってしまいます。
そこで出てくるのが、反応閾値が中くらいの個体です。反応閾値が低い個体が休んでいる間はこの個体が卵を清潔に管理するため、卵は多少汚れる程度で収まります。
もしこの個体が疲れて休み、さらに反応閾値が低い個体がまだ帰ってきていなかった場合でも問題ありません。今度は反応閾値が高い個体が働きだします。それによって最悪の事態、つまり清潔な維持管理に失敗して卵が死んでしまうことを避けることができます。
このように個体毎に反応閾値の差異が存在することによって、誰かが休んでいても常に仕事が継続されて集団が維持管理できることを発見したのが働きアリの法則の凄いところです。
もしこの反応閾値の差異が存在しなかった場合はどうなるか。
例えば反応閾値が低いアリだけを集めた場合はどうなるか。
確かに短期的には卵が物凄く清潔に保たれるでしょう。しかし一斉に働き出してしまうため、休憩を取るタイミングも一緒になります。その結果、仕事が常に継続されず休憩している間に卵が汚れていってしまい、最悪の結果に至りかねません。
実際にはそこまで極端にはならず、反応閾値が低い群を集めたとしてもその中でも差異がありますので、よく働くアリとそこまで働かないアリのグループに分かれることになります。ただ、ある程度は閾値が離れていた方が仕事の継続には役立つことでしょう。
働きアリの法則の意味
この法則が持つ意味はいくつか考えられます。
まず、働かないアリはまったく働いていないのではなく、仕事を常に継続するためのバッファであり交代要員です。働きアリの法則でよく言及される「働かないアリにも意味がある」という言葉は別の人が休んでいる時に代わって働く役割があるという意味であり、本当にまったく働かなくていいというわけではありません。
また、よく働くアリも休んでいるということです。働きアリの法則を援用して「よく働く上位2割をバリバリ働かせよう」とする経営者やコンサルが時々いますが、それは間違いです。率先して行動する腰の軽い層がその上位2割というだけであって、休みなくバリバリ働かせても大丈夫ということではありません。むしろ働きアリの法則から見出すべきは、上位2割のアクティブな層が気兼ねなく休めるよう交代要員を用意することでしょう。
結言
よく働く人も、ちゃんと休みましょう。アリさんだって休んでいるのですから。
余談
働きアリの法則を発見した長谷川先生へのインタビュー記事から引用。
ちなみに、アリの世界では「フリーライダー」と呼ばれ、仲間を装って外部から侵入し、働かずに自分の卵を産んで育てさせるアリがいるという。
「アリはフリーライダーを見つけたら必ず殺します。働く気がなくて働かないやつは絶対に許さない。人間世界よりずっとシビアです」
まったく働かないアリは殺されてしまうそうです。おっかない話ですね。
(2022.12.16 8:30追記)
「まったく働かないアリ」について言葉不足でした。
通常のコロニーには反応閾値が異なる「よく働くアリ」と「そこまで働かないアリ」が居て、「まったく働かないアリ」はそれらのアリとは遺伝的に異なるフリーライダーです。働きアリの法則で一般的に言われている「働かないアリ」とは「そこまで働かないアリ」であり、「まったく働かないアリ」は別種です。
よってゆめのさん (id:yumenoko)にブックマークコメントで頂いた
「自分の仕事を他者に押し付けて楽をする(組織を崩壊させる)奴は排除される」
という解釈は正しいです。そういう奴が「まったく働かないアリ」です。