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不適切なトップダウン:トップダウンと見切り発車は違う

 組織における意思決定手順を極めて大雑把に分類すると、トップダウン型ボトムアップ型に分けられます。

 トップダウンは組織のピラミッドにおける上層部が意思決定を行い、その指示が下の層へ下っていく上意下達の意思決定手順です。

 ボトムアップは下の層の情報を集約して上層部に上げて、その情報に基づいて上層部が意思決定を行う手順です。

 企業を例として、以下のような図式で説明されることが多いでしょう。

 

トップダウンとボトムアップの双方向性

 一般に二元論で語られることが多いトップダウンとボトムアップですが、実際はどちらか単一を採用するような類のものではなく複合的に活用されるものです。

 どちらの方法を取るにせよ意思決定のポイントは変わりません。最終的な意志決定者は上層部であるトップが下すものであり、そして意思決定のためには現場の情報が不可欠です。

 よってトップダウンとボトムアップの違いは

  • トップが方針を事前に決めてそれに沿った情報収集をするのがトップダウン
  • すでにある情報を吸い上げてそこから意思決定をするのがボトムアップ

であり、トップが意思決定をするために必要な情報収集の順序や方向性に差異があるに過ぎません。

 

 上図で言えば、

  • 下向きの矢印が先で、上向きの矢印が後になるのがトップダウン
  • 上向きの矢印が先で、下向きの矢印が後になるのがボトムアップ

ということです。

 トップダウンを例として、その矢印の双方向性を図示すると以下のようになります。

 上層部が方針を発令し、現場がそれに応じて情報をボトムアップし、得られた情報から上層部が意思決定を行う。これがトップダウンの手順です。

 ボトムアップでは方針の検討が後工程となります。

 

トップダウンへの誤解

 ところが世の中には、トップダウンを完全に一方向の意思決定手順だと誤解している人もいます。

 これは極めて不適切なトップダウンです。

 これでは意思決定に不可欠な現場の情報を意思決定者が獲得する機会が存在していません。現場情報を勘案せず、余剰リソースも把握せず、実現可能性や掛かるコストすら把握していない単一方向の決定ではその実現は運否天賦となり、組織に混乱をもたらします。このようなトップダウンは意思決定とは呼べない稚拙なものであり、ただの見切り発車に過ぎません

 

 意思決定はポーカーの勝負に近いものがあります。

 意思決定者の仕事は、持っている手札をよく見て、周囲の状況を伺って、完全な情報が手に入らない中でも思考を振り絞り、どれだけ賭けるかを決めることです。

 そういった努力をせず、手札さえ見ずにただやりたいことを上意下達する、それでは意思決定者としての資格はありません。

 「あれがしたい」「これがしたい」

 そんなことを言う程度であれば、子どもにだって出来ます。

 

簡易例

 最後に簡易的な事例として、企業が新製品を立ち上げることを例としましょう。

 適切なトップダウンでは、まずトップが新製品の立ち上げを方針として発令し、幹部に情報収集と企画立案をさせます。幹部は下部組織と市場の情報を整理し、リスクやコスト、実現可能性や将来性といった情報を整理して複数のプランを構築します。それらプランからどれを実行するか最終的に判定するのはトップです。

 適切なボトムアップでは、下の層から新製品立ち上げの提案がまず上がります。それらが外部環境に対して適切かどうかを考慮し、実行の是非を決めるのがトップです。

 不適切なトップダウンではトップが新製品の立ち上げを見切り発車で命令します。トップの意思に沿うよう下部組織は慌ただしく動きますが、実現可能性が考慮されていないことから、やれ人が足りない、やれ予算が足りない、やれ納期に間に合わない、いざ立ち上がっても上手く販売できない、無駄が多数発生して利益が出ない、そういった事態に陥る危険があります。

 不適切なトップダウンは組織を無駄に疲弊させ、さらには成功するかどうかは運否天賦の、いわばギャンブルです。

 

結言

 時々「素早いトップダウンが必要だ」「ボトムアップのほうが良い」という対立的な言論を見かけることがありますが、これらは順序の差に過ぎず、どちらが優れているという話ではありません。

 そもそもちゃんと意思決定のための情報収集ができているかのほうが重要です。それが無いものは意思決定とは呼べず、ただの思い付きや見切り発車です。

 

 

余談

 健全な組織では現場情報や外部情報は常に収集されて組織内にプールされているものであり、不適切なトップダウンは発生しないはずです。