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日本の産業構造と将来性について~経済複雑性指標を見る

 昨今、日本の産業や経済に対して悲観的な見解が少し多いように感じます。確かに高度経済成長期と比較すれば様々な指標が下降していたり他所の国に比べて伸び率が低かったりしますので、相対的に見れば決して楽観することはできないでしょう。

 しかし日本は未だ世界上位の経済圏を維持しており、将来的に急激な下降をすることはなくゆっくりとした下降や現状維持をするとみなすのが現実的です。技術革新次第では再浮上することだって考えられます。その根拠として、世界4大会計事務所の1つであるPwCによる将来分析では2050年でも日本のGDPは世界5位です。(購買力平価に基づく、2011年は4位であり、2030年は4位の予測)

 つまりはそこまで悲観するほどでもないと考えます。ゆっくり下降していくのだとしても、それは今すぐに構造破壊をして富を取り戻さなければならないというほどの危機ではありません。むしろ新しい挑戦を行う余裕期間が長いということです。

 楽観して良いというわけでもありませんが、過剰な悲観論は挑戦を遠ざけてしまいます。それよりもほどほどの危機感とハングリー精神を持つほうが建設的でしょう。特に大人が極端な悲観論に走るのは若者の情操にあまり良くありません。若者の未来のため、大人こそが悲観的な現実に立ち向かう姿勢を見せるべきです。

 極端な悲観論に染まる必要が無い根拠としてもう1つ、Economic Complexity Index (ECI)を紹介します。これは経済複雑性指標と訳されています。

経済複雑性指標とは

 経済複雑性指標は国家の生産力や特徴を測る指標です。これはハーバード大学国際開発センター成長研究所が開発した指標で、国家の輸出品目の単純な数量だけでなく、多様性と偏在性を考慮した数値計算がされています。

The Atlas of Economic Complexity

 指標を公開しているツールAtlasにある説明を抄訳してみましょう。

経済複雑性指標は輸出品目の多様性と複雑性に基づいて国をランキングしたものである。複雑性の高い国は高度で専門化した様々な能力を備えており、高度に多様化した複雑な製品群を生産することが出来る。

一国の経済的な複雑さを決定するのはその国の生産的知識だけではない。その国がどれだけの能力を有しているかはその国が作る製品の絶対数だけでなく、その製品の偏在性や他国の高度化・多様性も含まれる。

 多様性がある、つまり輸出品目が多岐に渡っている国は様々な製品を作ることができるだけでなく、新たな製品を作り出すイノベーションにも期待ができます。

 偏在性がある、つまり一部の地域でしか生産できない特異な製品を輸出している国は競争力を持っていると言えます。

 つまり経済複雑性指標は国家の単純な生産力を比較しているのではなく、経済安定性や将来性を含んだ経済力を比較する指標です。

経済複雑性指標のランキング

 あまり報道されない指標のため世間一般で周知されているとは言い難いですが、日本はこの経済複雑性指標のランキングにおいて世界1位です。

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 一部ですが日本・アメリカ・中国のランキング推移を示した図を載せます。日本は1995年から2019年までずっと1位をキープしています。Atlasの図にはありませんが、1995年以前も1位です。

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 日本の輸出品目を表す図は以下のようになります。多様性があり、また輸出品目の上位は簡単に他国では生産できない難しいものであること(偏在性があること)も分かります。

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 比較として、ナイジェリアの図を示します。

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 ナイジェリアの輸出品目は原油がほとんどを占めており、あまり多様性や偏在性が無いことが分かります。

ランキングに関する所見

 つまり、日本の輸出品目は多岐に渡り、製品の生産難易度が高く容易に他国が真似できないものが主であり、そのため産業や経済の安定性・成長性に優れており将来性がある、ということがこの指標から分かります。それは世界で約30年間1位を維持しているからも実際的に示されていると言えるでしょう。日本の産業や経済は侮れないどころか恥じることのない世界トップだということです。

 もちろんこの指標は一側面です。別の視点で見ればまだまだ課題はありますし、ITやグローバル分野など後れを取っているところはたくさんあります。しかしそれは悲観的になるようなことではなく、まだ伸びしろがあるのだと前向きに捉えてもいいのではないかと思います。なにせ世界トップの安定した産業構造を誇っているのですから、まだまだ挑戦する余力はあるのです。